絶唱;湊かなえ
ジャンル:ミステリー
★★★★★★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊
テンポ8.5、プロット8.2、ストーリー性8.8、展開8.2、人物描写8.5、背景描写8.5
空気感8.3、ミステリー8.2、ドキドキ感8.1、伏線9.2、読後感9.2
~ 解説 ~
おそらく作家自身が経験した阪神大震災のトラウマ、そこからの脱却を物語に書き換えた半私小説の再生物語なのではなかろうか。。。
なのでやられたらやり返す、復讐、恨みつらみ、といったヒトが普段感情に出さない暗い面を赤裸々に書き記すこれまでの湊作品とは大きく作風が変わっている。
しかしこの感じ、決して嫌いではない。
~ 作品につい ~
「楽園」は、
阪神淡路大震災で妹を失った雪江。恋人の書いた風景画がトンガの海だとわかったのは、
高校の担任松本先生が若かりし日にボランティアで訪れた写真と同じ景色だった。
そんな雪江が大学になり、ある日誰にも告げることもなく突然トンガに旅立ったのだが、
何が起こったのか。
そうして、当く離れた見知らぬトンガの地で尚美やトンガの人々と触れ合うなかで、彼女が
得たものと失ったものとは何だったのか。
「約束」は、
前作の松本先生の大学時代からトンガへボランティアで訪れることになった物語。
彼女が震災で亡くした友人は、震災前に気づかって自分のところに来てくれたがために、
予定を変更したために被災していた。
「太陽」は、
前作「楽園」で 嫌な母親として登場した杏子が主役。
シングルマザーで決して裕福でもない彼女も、導かれるようにトンガを訪れるが、彼女もまた
震災で被災して苦労している過去があった。
「絶唱」は、
まえ3作の総括ともいえる作品であるが、主人公の土居千晴はおそらく湊本人。
そうして彼女も震災で友人を失っているが、その後に起こった残った友人との仲たがいから
心を大きく痛めていた。
その後国際ボランティア先のトンガで尚美と出会うことで、徐々に心が生き返ってくる。
~ 読後感 ~
阪神大震災により大切なひとを失ったり、心に傷をおった人たちが、偶然にもトンガでゲストハウスを営む尚美とその夫セシミとつながっている。
そうしてそれぞれが、何もないトンガを訪れ、尚美やトンガの人々たちのフレンドリーシップや「死ぬことは悲しい事ではない」というキリスト教をベースにした生死感に触れることで、病んだ心が徐々に回復していく。
その一人に、4話目の主人公でありおそらく作家湊本人の事なのだろうが、震災から20年が過ぎた今やっと、自身の悲劇の体験を作品に出来るようになったことが乗り越え、再生出来た証が当作品であるなら、この作品は記念すべきnew湊かなえデビュー作なのかもしれない。
これまでの彼女の作品は、普通ならひた隠しにする心の奥底にある暗い部分をさらけ出すような、あるいみホラーやスプラッターよりよほどエゲツない作品を上梓する作家であり、それが魅力でもあったのだが、今後 再生した彼女がどう変わっていくのか。
心の澱が消えてアクが無くなってしまえば残念だが、一皮むけてグレードアップされることをただただ大きく期待する。 了
<評価の説明>
★★★★★★★★★★10:超傑作、もう神の域
★★★★★★★★★9:最高傑作、間違いなくこれからも読み続ける珠玉の1冊
★★★★★★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊
★★★★★★★7:秀作、十分に楽しめる作品
★★★★★★6:標準的佳作、とりあえす合格レベルの作品
★★★★★5:凡作、可もなく不可もなくで読んでも読まなくてもよいレベル
★★★★4:駄作、よほど暇であれば読んでもいいが・・・
★★★3:失敗作、読む価値なし
★★2:酷作、この作家の本は二度と手にも取りたくないレベル
★1:ゴミ、即破棄してもいい

