明治維新という過ち

〜日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト〜田伊織

ジャンル:歴史(幕末明治維新

 

★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊作、十分に楽しめる作品

テンポ8.5、プロット8.5、ストーリー性8.5、展開9.0、人物描写7.5背景描写8.0、

空気感8.0、歴史的転回8.5、発想8.5、どんでん返し9.0、読後感8.5

 

     

 

~ 解説 ~

明治維新の歴史を学んだ時に、なぜかしらの違和感を覚えた方もたくさんのおられるのではないだろうか。

 

そのひとつに、若すぎる武士が活躍したことにあったのではないかと思うのだが、昔は寿命が短かったから大人になるのも早かったんだろうとか、まぁ勝手に理由をこじつけて納得した記憶がある。

もうひとつが、それでなくても身分制度が厳しい江戸時代の諸藩で、なぜ藩中でも発言権もない下級の武士の息子如きの若造たちが家長である親を動かし、藩主を動かし、公家を動かし、挙句の果て戦争を起こして政権まで取ることが出来たのか。

 

副題に『日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』と評しているので、その答えはこの1文で言い表しているのかもしれないが、明治維新は単なるテロリズムであったというのがこの作品の主張となっている。

 

確かに、老成したテロなど聞いた事がない。

若いからこそ、熟慮や判断がなくても、ただの勢いだけで突っ走れたのだ。

そうしたテロリストたちだからこそ、親兄弟も過去のしがらみも権力構造も関係ないのだ。

ただし、バカではなかったからうまく使えるものは利用した、そんなところだったという事を様々な角度や登場人物に充てて証明していく1冊となっている。

 

もちろん結果論として勝者が歴史を書き換えるという論法の元、今の歴史書や教科書に書かれていることは彼らテロリストたちの都合よく書き直した、「小説 明治の歴史」であり、決して事実を記載されたものではない事を理解すべきなのである。

 

この作品に書かれている事の全てが正しいわけでは決してないだろうが、これまでとは違った視点から明治維新を眺め直すことに興味があれば、なかなかに面白い作品に仕上がっている。

 

~ 作品につい ~

明治は不思議な時代である。

江戸後期に黒船がやってきて、日本中がパニックになる。

パニックになった幕府はすぐに不平等条約を各国と結び、それに怒った各地の志士がそれぞれの地で日本を憂い出来上がったひとつの思想が攘夷思想となり、その後 朱子学を結び付き尊皇攘夷となっていく。

 

確かによくできたストーリーのようにも思うが、これらを推し進めたのは20歳前後の出自も下級の武士たちであり、坂本龍馬に至っては浪人だったのである。

神とまであがめられた明治の思想家吉田松陰に至っては、没年29歳という若さであった。

 

尊皇攘夷を掲げた志士が作った明治政府の政策は、それまでの攘夷思想を手のひらを返したような開国派に転身するのだが、これでは江戸城桜田門前で暗殺されたもともと開国派であり和平的かつ最大限平等な条約を進めた井伊直弼などは浮かばれないだろう。

 

そのほかにも西郷と勝の江戸城の無血開城、大政奉還によりギブアップ宣言した幕府を執拗に追いかけ最後には北海道まで追い詰めた戊辰戦争、意見が違うと地元に戻ったそれまでの盟主西郷を徹底的に潰した西南戦争、藩や大名家やそれに連なる武士階級という既得権益を一方的に排されるとわかりながらも異論も反対もなく静かに消し去った廃藩置県、農民出身の初代総理 伊藤博文、それこそつい150年ほど前のことなのに遠い古代史ほどに不可思議な幕末明治初期。

 

これら山ほどある不可思議にだらけの明治維新について、解き明かそうとし現代に警鐘をならしてくれる作品に仕上がっている。

 

~ 読後感 ~

この作品はシリーズ3作品の第一作目としては、長州藩をキーワードに問題提起されたが、これまでに触れてきた明治維新とは一味違った視点で 時代を掘り下げ自説を展開してくれた。

 

この後 次作では更に幕府にスポットを当て、最終巻では西郷ということなので、愉しみというしかない。 了

 

 

<評価の説明>

★★★★★10:超傑作、もう神の域

★★★★9:最高傑作、間違いなくこれからも読み続ける珠玉の1冊

★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊

★★7:秀作、十分に楽しめる作品

★6:標準的佳作、とりあえす合格レベルの作品      

5:凡作、可もなく不可もなくで読んでも読まなくてもよいレベル

4:駄作、よほど暇であれば読んでもいいが・・・

3:失敗作、読む価値なし

2:酷作、この作家の本は二度と手にも取りたくないレベル

★1:ゴミ、即破棄してもいい