魔風海峡~死闘!真田忍法軍団 対 高麗七忍衆~:荒山徹
★★★★★★6:標準的佳作、とりあえす合格レベルの作品
テンポ;4、プロット;7、ストーリー性;7、人物/背景描写;7、発想:7、空気感;7、
歴史的整合;8、ミステリー/サスペンス性;7、ドンデン返し:-、読後感;6
ジャンル:歴史、ミステリー
感想:
初読の作家である。
題名を見る限り作品の系統が山田風太郎の括りかと思えば、作家自体がもう一世代遡りった五味康佑のファンであるという事を読後に知り、ん~よいも悪いも納得。
表題は忍法や七忍衆といった風太郎ばりの忍者モノかと思いきや、その上位に剣術が置かれているところが少々異なり、久しぶりに目にした五味康佑が礎になっているとは、なるほ0ど懐かしくも納得できる雰囲気がある。
ただし、この手の伝奇小説は 康佑の時代からどんどんと進化しており、既に風太郎ですら古臭く感じる部分が多々あるためか、当作品も どことなく古臭く感じてしうのは、五味臭で穿っているんだろうか。
もうひとつ残念なのは、テンポが悪い。
途中なんどもへこたれそうになるのだが、最後の頁までたどり着くのは相当に厄介である。
とはいえ ストーリーは結構凝っていて、メインテーマは天下統一を果たした秀吉の世、朝鮮出兵中が時代背景になっているのだが、そのさらに奥には 大和朝廷 欽明天皇の時代というと聖徳太子の祖父であり、用明/推古天皇の父の御代に遡るサブテーマが潜む。
真田幸村率いる十勇士は、古くは大和時代の朝鮮百済復活用の資金として朝鮮に埋蔵された莫大なる財宝を、資金的に困窮した豊臣政権復権をかけて引き上げるというミッションを石田三成から託される。
そうして渡った朝鮮の情勢は、文禄・慶長の役の後半戦真っ只中。
秀吉の死期も近く、朝鮮と中国 明軍連合軍に押し返されて形勢も不利な状況下の日本軍の加藤清正や小西行長たちの攻防と、十勇士と朝鮮忍者衆との攻防という2つの攻防が息をもつかせない。
登場人物も大名武将は勿論の事、十勇士や、公家までがオンパレードで、それに加えて実在かどうかは知識がないため不明なれど朝鮮側も李舜臣を含め多彩である。
頁数が多いので、人物もそれぞれ描写されていて、イメージしやすい。
それ以上に 当作品で最も目を見張ったのは、埋蔵した大和時代背景の考察の深さである。
朝鮮へ財宝を埋めた理由を、朝鮮と日本との力関係に取っている。
教科書では、朝鮮南部の一部 任那国に日本府と呼ばれる出先機関があって、そこから様ざまな文化や技術を流入したといわれてきた。
しかし昨今は、この任那国が朝鮮半島の脅威で、百済や高句麗はおろか新羅にも圧倒的な優位性を持っていたという説へ移行し始めており、当作品もその説をベースに話が進む。
この状況を脱しようとした新羅が取った最悪の選択が中国の唐へ援助を求める。
これにより圧倒的後ろ盾を得て、任那はもとより百済、高句麗も併合して朝鮮統一をしたは良いが、唐からの冊封という事実的支配下に降りたことが その後の朝鮮人気質を作り、それに抗するように嫌日意識を育てたことが、現在の日韓関係にまで影響している。
そんな歴史的考察を加えながらも、それこそ風太郎バリに血で血を洗う忍者合戦がはじまるが、描写も結構えげつなくリアルである。
ひとりふたりと倒れていく様も、五味の「○○番勝負」や風太郎の忍者モノと瓜二つである。
最終的に、忍者合戦と秀吉の死や朝鮮軍の英雄 李舜臣の死をうまく結び付けながら収束させるところも、無難に押さえている。
そんなわけで、2つの時代を同時に勉強できるという意味ではお得であり興味深い作品に仕上がっているのだが、それゆえなのか とにかくテンポは悪い。
これひとつをもって、総合評価は相当に低く抑えたが、それ以外の点では秀作と云ってよく、ポスト五味、ポスト風太郎と云っても恥じない作品ではある。 了
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魔風海峡―死闘!真田忍法団対高麗七忍衆
2,530円
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<評価の説明>
★★★★★★★★★★10:超傑作、もう神の域
★★★★★★★★★9:最高傑作、間違いなくこれからも読み続ける珠玉の1冊
★★★★★★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊
★★★★★★★7:秀作、十分に楽しめる作品
★★★★★★6:標準的佳作、とりあえす合格レベルの作品
★★★★★5:凡作、可もなく不可もなくで読んでも読まなくてもよいレベル
★★★★4:駄作、よほど暇であれば読んでもいいが・・・
★★★3:失敗作、読む価値なし
★★2:酷作、この作家の本は二度と手にも取りたくないレベル
★1:ゴミ、即破棄してもいい


