羊と鋼の森  著者:宮下奈都

 

★★★★9:最高傑作、間違いなくこれからも読み続ける珠玉の1冊

   プロット;8、ストーリー;9、描写;9、テンポ;9、発想:8、空気感;10

   わくわく;8、感動;8、切なさ;7、読後感;9

ジャンル:青春小説、文学

 

感想:

はじめからさいごまで、やわらかくやさしい文体と内容で穏やかに読んでいられる。

 

決して突飛なことが起こることもないし、大きな業績を残すようなこともない。

 

なんでもない内容と云ってしまえばそれだけなんだろうけど、それですら ただただ いい作品だなぁとしみじみと思える作品なのである。

 

 

この作家 過去に何冊かは読んでいた。

『誰かが足りない』は傑作で、この作品を読んだ後 読み継ごうとまとめ買いしながら、そのまま積読となったままになっていた。

 

思い起こしても いい作家だったと、改めて思い出した。

 

 

 

さて 当作品、まず題名の付け方がうまい。

 

小説なので内容が重要だとはいえ、やはりつかみは大切。

 

題名と文頭の数ページというのは非常に重要で、まずよほど知った作家でなければ、その題名で手に取る取らないを自然に選別しているんではないだろうか。

 

まぁ確かに、題名負けという作品が多いので、それだけで買う事は少ないかもしれないが。

 

 

そういった意味では、上手いだけではなく そのままこの作品を表した いい題名なのだ。

 

 

 

ストーリーは、主人公の新人ピアノ調律師の成長物語。

若者たちの仕事に対する夢と希望と葛藤と、というありふれたとはいえ、現実的で切実な内容にはなっているんだが。

 

そんなので、退屈そうでドメスティックで、特に調律師などという職業に 過去にピアノに触れてなければ面白くないんじゃ・・・、と思いがちなれど、そういった危惧は全く不要。

 

 

ストーリーとしては、主人公は北海道の何もない山の中で育った青年。

 

彼がたまたま高校で出会った調律師のピアノの音色に感化され、ピアノの経験もないままにその場で弟子入りを志願する。

 

高校卒業後、調律師学校を経て 運よくその調律師が働く会社に就職することになるのだが、もちろんそううまくはいかない

 

ただ、青年の生まれ育ちなのか持ち合わせた性格なのか 森で育った雰囲気を持ち合わせて、自然と人を惹きつけるのだが、この彼の持つ空気感が 作品全体を覆っており、それこそ不思議に森の中、薄い霧に覆われた森を彷徨っているような雰囲気に包まれているのである。

 

作中で青年が、どのような調律を目指せばいいのかを調律師に問うた際、原民喜という詩人の一節が引用される。

 

  「明るく静かに澄んで懐かしい文体、

   少しは甘えているようでありがなら、きびしく深いものを湛えている文体

   夢のように美しい現実のように確かな文体」

 

実は、この文書が そのままにこの作品を現わしている。

 

 

そうして、この作品の空気感に触れた時に、嗚呼過去に読んだ彼女の別の作品にもあったのを思い出した。

 

 

一種 ヒーリング小説のようでもあある。

 

とにかく穏やかで優しい気持ちになれる、ぜひ手に取ってほしいと思える、そんな上質な作品であった。 了

 

 

 

<評価の説明>

★★★★★10:超傑作、もう神の域

★★★★9:最高傑作、間違いなくこれからも読み続ける珠玉の1冊

★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊

★★7:秀作、十分に楽しめる作品

★6:標準的佳作、とりあえす合格レベルの作品      

5:凡作、可もなく不可もなくで読んでも読まなくてもよいレベル

4:駄作、よほど暇であれば読んでもいいが・・・

3:失敗作、読む価値なし

2:酷作、この作家の本は二度と手にも取りたくないレベル

★1:ゴミ、即破棄してもいい