沈黙の教室 著者:折原一

★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊

ジャンル:ミステリー、ホラー、学校

感想:

そろそろ、この作家にはまりだしそうな予感が・・・。

 

前回読んだ『異人たちの館』が、徹底した叙述トリックを多用したミステリーであるとすれば、当作品は ストレートにホラー色の濃い本格ミステリーということになるのか。

 

どちらにしても、ハードで450頁に迫る大作。

 

とにかく、まず彼の作品で言えることは重厚なのである。

 

浅薄な作品が多い中で、とにかく作り込まれたストーリーはただただ重く厚い。

 

なので、ページ数が必然的に多くなるが、といって読みやすいのである。

(それには、内容以外にもいろいろと工夫がなされているわけであるが)

 

そうして、1頁目を読んだ時点で既に引き込まれ、そのあとはもうページを繰る手が止まらない。

 

 

ストーリーとしては、表題にも教室とある通り、「学園モノ」である。

 

学校を舞台にした小説は山ほどあるその理由を考えたとき、そこには恋愛があったり、ホラーがあったり、当作のようなミステリーがあったりする。

 

ひとつには固定された集団であるが為に生ずる様々な出来事が、まだ制御出来きらない未熟人であるが故の衝突であったり、もう一つ絶対的に言えることは 読者が学校という分野、それが共感であろうが反発であろうが、少なくとも全ての人たちが通ってきたという共通の体験があることに、もあるのであはなかろうか。

 

 

当作品のベースは、15歳中学3年生の時代に起こった事件と、その20年後の現在の事件を交互に繰り返しながら、物語が交差していく構成になっている。

 

バックグラウンドは、田舎の中学校であるが、田舎といえば ゆったりとしたおおらかなというイメージがある反面、逆に田舎ほどヤンキーが多いことからも窺える通り、質が悪いかもしれない。

 

当作はもちろん後者で、まず人数が少ない(作品では1学年1クラス)事で、幼年期に一度出来上がったヒエラルキーは早々に変わらない。

 

当作品では、その陰湿さを最大限に生かす。

 

それも、わかりやすいいじめではなく、学校全体に覆われた空気として。

 

そこでは その対象は生徒のみならず、教師までが含まれる。

 

そうして、学校を去るものや、はては自殺者までに発展した過去を持つクラスメートが20年後に同窓会をしようした事から、事件が発生する。

 

「金を借りたほうが忘れても、貸したほうは忘れない」のと同様、「いじめた方は忘れても、いじめられた方決して忘れない」、それが当作品のテーマ。

 

そのような悲惨で陰惨な時期を過ごしたクラスで同窓会を計画しようとするセンシティビティーの無さ、当時心に負ったトラウマを思い出させる事が 現在に新たな火種を作り事件が勃発していくのだが・・・。

 

 

構想もさる事ながら 緻密に組み立てられたストーリーに、さすが受賞作と唸らせられる。

 

ひとつ残念があるとすれば、最終的な着地点の弱さは この作品に留まらない、この作家の特徴か(笑)  了

 

★★★★★10:超傑作、もう神の域

★★★★9:最高傑作、間違いなくこれからも読み続ける珠玉の1冊

★★★8:傑作、もう一度読み返したくなる1冊

★★7:秀作、十分に楽しめる作品

★6:標準的佳作、とりあえす合格レベルの作品      

5:凡作、可もなく不可もなくで読んでも読まなくてもよいレベル

4:駄作、よほど暇であれば読んでもいいが・・・

3:失敗作、読む価値なし

2:酷作、この作家の本は二度と手にも取りたくないレベル

★1:ゴミ、即破棄してもいい