想定出来ず | ネズミのハーミット

ネズミのハーミット

ネズミの歯ぎしり



京都の七月はとにかく暑い。
油蝉の声が猛暑を掻き立て、
祭り囃子が洛中の炎暑を押し上げる。
狭い路地には車と観光客の人いきれが、
暑熱を加熱させる。
一昨年から住んだ隠居場は
洛中のど真ん中😍
すぐそばの六角堂には、
都のど真ん中を示すへそ石がある。
鴨の川風をビルが遮り、
ヒートアイランドの只中、
祇園祭は七月一日の吉符入りから、延々1ヶ月続く。
千年以上続いた疫病、悪霊退治の祭りなのだ。
都は戦、疫病、川の氾濫と地獄のような無常の世の連続で、
天皇や貴族たちは浄土を願い寺を建立し、
庶民は祭りにすがった。

隠居場は長刀鉾町のそばで、
七月になるとコンコンチキチいうお囃子の稽古と、
鉾立てを見るため、
あるいは縁起物の粽を買うための人々で、
通りは埋め尽くされた。

七月某日、京の隠居場が気になり見に行った。
郵便受けは書簡で溢れ、
トイレの便器はカビていた。
何より人も車も疎らな洛中は鈍色に沈んでいた。
応仁の乱の三十年、
第二次世界大戦前後の五年の中断以来
新型コロナウイルス台風で、祭りは中止になった。
疫病退治の長刀を鉾頭にかざすことなく
全面降伏した町に、録音された祭り囃子が流れていた。

デカンショを読まず半年蟄居して
  後の半年 想定出来ず