さて、前回キャンバースラストなるものについて説明をする中で、高速度&深いバンクになるほど、もう一つのフォースモーメントである「コーナーリングフォース」が必要になってくると言いましたが、今回はコーナリングフォースについて掘り下げて話をしたいと思います。

まず、タイヤの状況について、静的時と動的時の場合についての差異に注目しなければなりません。

タイヤは直進状態でも、旋回状態でも、常に動いているといっても過言ではありません。タイヤは小さいながらもその形を変形しつつ、仕事をしています。例えば、キャンバー(バンク角)を深くかけるに従い、グリップ力の限界に近づき、結果「たわみ」が生じることになります。特にビードセクションはアウト側にプッシュされ、サイドウオールが横方向に「たわむ」ことになるのは想像に難くありません。

静的時(止まっている状態)であるならば、理論上はサイドウオールは横方向にたわむ(へこむ)だけなのですが、走行時であるのなら、横にたわんだタイヤが回転しながら前進することになり、その結果、タイヤの向きと実際の進行方向にはズレが生じることになります。つまり、タイヤのサイドウオールが「ねじれる」現象を生み出し、このねじれ変形に対する抵抗力をタイヤ(サイドウオール)が発生することになり、この抵抗力の大きさが、タイヤの特性を大きく左右する大切な要因にもなっています。この抵抗力を発生する原因となる、タイヤの向きと実際の進行方向のズレの角度を「スリップアングル」と呼んでいるのですが、4輪などではおなじみのことがであるかと思います。

このスリップアングルによって発生する旋回力のことを、「コーナリングフォース」と言い、先に説明した「キャンバースラスト」ともに、重要な役割を果たすことになります。

ラジアルタイヤがバイアスタイヤより、より大きなコーナリング性能を見せるのは、このコーナリングフォースに大きく関係しています。ラジアルタイヤはバイアスタイヤに比べて非常に堅牢にトレッド部が作られており、トラクションがかかった際の接地面の変化が少ないため、より大きいスリップアングルに対応できるからなんです。

コーナリングフォースはグリップ力とタイヤのねじれに対する抵抗力で決まってくるので、このスリップアングルについては各メーカー独特の方法でその「味付け」をしているといっても過言ではありません。

少し長くなりましたが、yamasakimaruさんからのご質問の「ストレートで縦方向に変形するはずですが高速コーナーと低速コーナーでかなりの違いが出ると思いますがどうなんでしょう。 また変形率が大きいと発熱量もかなり高いと思いますがコンパウンドは固めなのでしょうか?」についてですが、高速コーナーと、低速コーナーにおけるキャンバスラストとコーナリングフォース(スリップアングル)についての関係につきましてご理解いただけたかと思います。

コンパウンドについては、コンパウンドで固めにすると言う考え方ではなく、ケース剛性を含めたトレッド部の剛性力によって変形率を抑え、サイドウオールの抵抗力(扁平率も関係しています)にてタイヤ特性を発揮しているといっていいでしょう。

タイヤって本当に奥が深く、技術の進歩によって大きくタイヤの構造も変わりつつあります。少しでも安全に、そして快適に乗れるようなタイヤをお届けできるように、日々努力をしていきたいと思っています。