「裏切る」という言葉を聞くと、ほぼ全ての人が悪いイメージを持つのではないでしょうか。
きっと義理人情にかけた行いをしたんだろうなとか、
期待されていたのに結果を出せなかったんだろうなとか、
とかくネガティブな連想をしてしまいがちな気がしますが、
クリエイターにとっては、悪い意味合い以外でもよく使用されるようです。
たとえば、読者の予想する展開を裏切る漫画家や小説家であったり、
プレイヤーや視聴者の想像する結末を裏切る内容を作り上げる監督や放送作家などの職業に就かれている人達などなど、『良い意味で』が頭に付く裏切り行為を態と仕掛けている人も大勢いるでしょう。
その『裏切った展開』が、果たして受け取り手にとって素晴らしいものであるのかどうかはさて置くとしても、とにかく、裏切りのない作品は、見方によっては予定調和的に映ってしまいかねませんし、まぁ適度に裏をかいて、『予想外』を与えつつ、物語に飽きさせないような工夫を凝らす作業は作家さん達の重要な仕事のひとつなのかも知れません。
百田尚樹さんの【幸福な生活】は、最後の一行でこの『裏切り』を仕掛けることに注力した短編集です。
全てがどんでん返しというわけでもなく、ただ、ラストに一言、衝撃的な事実が明かされたり、謎が解けたりと、所謂『オチ』が一言に集約されているわけです。
帯には随分と大袈裟な文言が書かれていたようですが、
どの話も、言う程衝撃のラストという感じはありませんでしたし、ストーリー自体が有り触れたものばかりで、20編近くありましたが、どれも割と淡々とした、あまり記憶に残らないようなものばかりだったようにも思います。
ただ、取り分け詰まらないわけでもなかったので、
印象に残ったお話に触れてみます。
まず一発目に載っている『母の記憶』です。
認知症になって老人ホームで暮らしている母の戯言に付き合っている内、思いもよらない発言を耳にすることになる、そんな内容です。
認知症や耄碌した人間が口にする台詞の数々、
それらは本当に全てが信じるに値しない妄言なのでしょうか。
実はたくさんの言葉の石ころの中には、本物の宝石が紛れこんでいるのかも知れません……。
そんな感想を持ちました。
それと『おとなしい妻』。
これもよくある人格障害ネタで、特に捻りもなく最初から見えていたゴールに向かってジョギングしつつ完走しますが、個人的には好きなネタでもあるので、この話も嫌いではないです。
騒がしい男と書いてあったので、奥さんの別人格は男の声を出せるのでしょうか……。
『痴漢』も、面白くはなかったけれど、やりたいことは伝わりました。
冤罪の被害者になったことがなくとも、男なら一度は思い描いたことがある「痴漢冤罪で人生が終わってしまう」という恐怖を和らげる優しい物語でした(笑)
逆恨みと取られてしまうのかもしれませんが、もしも本当に心当たりがなくて、示談金目的に痴漢の犯人にされてしまった場合、多くの男はその女性に対し復讐を誓うでしょうし、仕事や家族を含む、自分の人生を壊されてしまった人は、殺人だって辞さないでしょう。
本当に痴漢をされてしまったら、勇気を出して声を上げるべきですが、
お金欲しさに冤罪犯を作ろうとしている女性は、命を懸けて挑戦するべきですと忠告しておきます。
『再会』は唐突な幽霊話で、なんというか「これでいいのか……」とも思いましたが、結末を見るといい話(?)なので、ここまでの数話が後味の悪いオチだっただけに、少しだけ優しい気持ちになれました。
『ビデオレター』は、一番確り作られていた、といいますか、これはひとつの作品としてちゃんと完成してる感がありました。
後味は悪いですけど。
妻が亡くなり、少ししてから届けられたビデオレターを、老人男性が観ている――ただそれだけで、ずっと妻の独り語りなのですが、途中、男の浮気話や、その妻と結ばれるに当たり、様々な裏工作を行っていたことを、実は知っていましたという、強迫染みたことを延々口にしているところから、何かしら復讐が仕掛けられているんだろうなと思いつつ、彼が一番ショックを受ける復讐と言えばもうそれしかないだろうなという、まさにどんぴしゃりのオチでした。
意外性こそないものの、落ちるべき場所に落ちた感はありました。
最後の一行台詞を「ごめんあそばせ」で終わらせたのも良かったです。
あとは『深夜の乗客』 位ですね。
これは結構好きです。障害者を装うことで「守るべき被害者」になろうとする人は、現実世界にもいそうですし、変なリアリティがありました。
個人タクシーの運転手が深夜に乗っけた女性客が、車内での動向がおかしい客のことを「頭に障害を持ってるんだろうな」と断じながら、彼女の家に送り届け、お金を取ってくると言って家に這入っていったきり、一向に戻る気配がない為、インターフォンを鳴らすと老婆が出てきて、「……それはきっと死んだ娘です。あの子が……帰って来たんですね」みたいな流れになって――という感じです。
まぁ働けるのに生活保護で生活している人もいますし、何とも言えませんね。
表題にもなっている『幸福な生活』は、一言で言えば夢オチです。
面白くも詰まらなくもなく、ただただ「夢オチである」の一言に尽きます。
手塚先生が禁止された手法ですが、2010年代になっても相変わらず使用されているところを見ると、やはりお手軽に"裏切れる"から、というのもあるのでしょうね。
以上が一冊通しての何となくの感想ですが、
正直、「他の作品も読んでみたい!」と思えるような、後引く読後感はありませんでした。
しかし、話題作のカエル達の楽園話は興味がありますので、
石平さんとの対談本含め、近々読んでみたいと思います。
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