木曽路で文学と言えば、島崎藤村の『夜明け前』を忘れることはできません。

 

 木曽路はすべて山の中である。あるところは岨づたいに行く崖の道であり、

 

 

 この冒頭の一節だけとっても、多くの方のブログやウェブサイトに引用されている気がします。

 

 有名なだけに、また長編小説でもあり、なかなか敷居が高いのですが、気ままに思いついたことを、二、三書いてみたいと思います。

 

 

 私が、岩波文庫版を買ったときに、まず思ったのは、『木曾路名所圖會』。

 

 

 文庫第一部上のカバー絵*は、同図絵第三巻の挿絵「棧道舊跡」。

 

 文庫第一部下**は、同図会第三巻の「福島開隘」です。

 

 冒頭の文章も、北小路健『木曽路文献の旅』(芸艸堂、1974年)によれば、同図会の三富野の条、

 

 

 木曾路はみな山中なり。名にしおふ深山幽谷にて、岨づたひに行くかげ路多し、

 

 

を踏まえたものだそうです。

 

 

 次に、読み始めて思ったのは、地図が必要ということ。

 

 このブログのタイトルは、「地図を見ながら」ですが、地図を見ながら、例えば中津川と馬籠、馬籠と妻籠というように、位置関係を確認しながら読まないと、わかりにくい小説かもしれません。

 

 実は、『夜明け前 第一部』(新潮社、1932年)には、「木曾街道之一部」という「約三十七萬分之一」地図が掲載されていました。

 

 描いたのは、当時東大地理学教室の院生だった岡山俊雄氏***。

 市川健夫「開設四百年を迎えた中山道―木曾街道が果たした役割と現状」****によれば、

 

 読図をしながら小説を読むという本邦最初の文学本であった。

 

ということになるようです。

 

 

  

 

(次回に続く)

 

*夜明け前 第1部(上) (岩波文庫)/岩波書店
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***岡山俊雄「『夜明け前』の地図-藤村夫妻の手紙-」(1954年)、剣持武彦編『島崎藤村「夜明け前」作品論集成1』(大空社、1997年) 

 

****『地理』第46巻第5号(2001年5月号、古今書院)