女性に人気のオクシロモンというカレー屋が二子玉川の高島屋にあると聞いて、久しぶりに二子玉川を訪れた。二子玉川はニコタマの愛称で知られる高級住宅街だ。最近では高級住宅地と言えば港区の白金や白金台が有名だが、二子玉川も古くから高級住宅街として知られている。

 オクシロモンの店内は噂通り平日にも関わらずランチを楽しむ優雅な女性たちで溢れ返っていた。席は満席で、僕は30分ほど待たされることになった。

 待っている間、高島屋をぶらぶらしながら考えた。白金に住むセレブ女性はシロガネーゼと呼ばれている。このシロガネーゼという言葉はイタリアのミラノに住む人を指すミラネーゼをもじった呼称であるが、シロガネーゼという響きには単なる造語のおもしろさだけではなく、それに加えてセレブにふさわしい高級感も携えていると思った。

 まず白金(しろかね)という地名に高級感がある。白金という字面は都会の洗練されたおしゃれな街を想起させる。白金という地名を聞いて田んぼや畑を連想する人はいないだろう。さらに白金は『はっきん』と読むこともできる。白金(はっきん)とはプラチナのことである。シロガネーゼはただのセレブ女性ではなくプラチナの街に住むセレブなのだ。

 僕は二子玉川に住むセレブ女性たちが何と呼ばれているのか気になった。江戸時代から玉川八景と呼ばれる風光明媚な景勝地として栄え、明治時代からは財政界の要人の邸宅や別荘が立ち並ぶようになり、現在は駅前の再開発も終了して世田谷の高級住宅街として今もなお人気を誇る二子玉川に住むセレブ女性にもきっとシロガネーゼのような呼び名があるに違いないと思った。

 頭に浮かんだのは…

 タマガネーゼ

 ニコタマのタマガネーゼ

 …違う。絶対に違う。

 タマガネーゼは品がなさすぎる。しかもニコタマとタマガネーゼのコンビネーションは聞いてられない。

 調べてみると二子玉川のセレブ女性たちはニコタマダムと呼ばれているようだった。VERYという雑誌で20年ほど前からシロガネーゼという言葉と共にニコタマダムも使われ始めたらしい。タマガネーゼと比べると確かにニコタマダムの方が品がある。

 僕は急に怖くなってきた。ニコタマダム御用達のオクシロモンに僕のようなイナカモンがのこのこと入っていいもんなんだろうか。普段はカレーの食べ方など何も気にせず食べているが、自分のカレーの食べ方が実はマナー違反をしているんじゃないか、下品な食べ方をしてるんじゃないかと不安になった。Googleで『カレー 食べ方』と、地球にやってきたばかりのエイリアンがするような検索をしたりしてしまった。カレー発祥の地インドにならって思い切って手で食べた方がいいのかなとか色々思案していると、時間になり僕は店内に案内された。

 ニコタマダムは誰も手でカレーを食べていなかった。普通にスプーンを使って普通にカレーを食べていた。その姿を確認して、ニコタマダムもただカレーが好きなだけなんだと安心した。

 ちなみに余談だが、駒沢のセレブ女性はコマザワンヌと言うらしい。洋犬を連れて駒沢公園を散歩するセレブ女性の姿が目に浮かぶ。シモキタリアンの僕とはほど遠い存在だ。