僕は妖怪という人でも動物でもないその異形の存在に取り憑かれている。きっかけは小さい頃に親に読んでもらった昔話だ。鬼や河童や天狗という謎の存在が当たり前のように登場する昔話に僕は興奮した。「鬼って何?」「河童って何?」「天狗って何?」そして僕の妖怪愛はゲゲゲの鬼太郎で爆発した。水木しげる先生が描く妖怪の絵は今まで絵本で見ていた妖怪の絵と比べ物にならないほどリアリティーがあり、その絵を見ているとこの世かあの世かわからない別の世界に誘われるような不思議な魔力を持っていた。それからというもの僕はむさぼるように妖怪の本を買い集め、今でも妖怪図鑑を一人眺めては様々な妖怪の生態を自分なりに調べるのが一つの趣味になっている。

 

 僕は多くの人が妖怪は空想の話で創作だと思っていることが腹立たしい。目に見えないからといって妖怪の存在を否定するということは愚かなことだと思う。細菌やウイルスが目に見えなくても存在しているのと同じで、妖怪も見えないからといって存在しないということには決してならない。逆に僕は、鬼や河童や天狗が本当に存在しないのだとしたら、存在しないものなのにこれほどまで日本で浸透して馴染みがあるのは異常なことだと思う。龍もそうだ。龍に関しては日本や中国だけではなく西洋でも存在している。龍を実際に見た人が世界中に何人もいたから、その存在が絵で残されたり話として語り継がれて、現代にも残っているんだと思う。本当にただの空想であれば、歴史のどこかで淘汰されて消えてしまっていたはずだ。

 

 下北沢の駅の周辺には代田という地名の場所がある。駅で言うと小田急線世田谷代田駅、京王井の頭線新代田駅、京王線代田橋駅という所だ。この代田という地名の由来はダイダラボッチという妖怪からきている。ダイダラボッチはジブリのもののけ姫にも登場する非常に大きい巨人で、大太郎法師がなまってダイダラボッチと呼ばれていて、『近江の土を掘って富士山を作り、その掘った跡が琵琶湖になった』などの国創りの伝説が数多く残っている。ダイダラボッチの足跡は水のかれない肥沃な窪地になると言われていて、代田という地名はそれに由来して名付けられた。

 

 昨夏、ダイダラボッチの足跡にADDAというカレー屋がオープンした。ADDAとはベンガル語で集うという意味らしい。僕は何かに呼ばれるように、その店に入りカレーを食べた。帰りに代田富士見橋を通ると、ダイダラボッチが作った富士山が見えた。僕はカレーのプレートに盛り付けられたライスみたいだなと思った。どうやら僕はカレーにも取り憑かれてるようだ。