僕は年に数回新木場を訪れる。スタジオコーストというライブホールで行われる音楽イベントに行く際に新木場の駅を利用するのだが、僕は会場に入る前に必ずカレーショップC&Cで腹ごしらえしてから会場に向かう。

 

 C&Cが新木場にできた時は驚いた。C&Cは京王沿線にしかないものだと思っていたからだ。調べてみると新木場のC&Cはフランチャイズだった。注文の際にライスを白米か十穀米のどちらかから選ぶという他のC&Cにはないサービスがあったので不思議に思っていたが、フランチャイズだと知って腑に落ちた。

 

 昨年Hawaiian6というバンドが主催するECHOESというイベントがスタジオコーストで開かれるので新木場に赴いた。駅に到着して、いつものようにC&Cでカレーを食べていると、奥のボックス席に高校生と思われる男の子2人が座っているのに気が付いた。1人はこちらに背を向けているのでどんなTシャツを着ているのかわからなかったが、こちらを向いている彼はECHOESに出演するバンドのTシャツを着ていたので、彼らもこれからスタジオコーストに向かうのだとすぐにわかった。

 

 彼が着ているバンドTシャツは僕が着ているGARLICBOYSというバンドのTシャツではないのだけれど、僕と年齢も二周り以上違うのだけれど、世代の違う彼らと僕がこれから同じイベントに行くのだと思うと嬉しくなった。彼らのことを同じ音楽を愛する仲間だと思えた。

 

 僕は高校時代いつも孤独を感じていた。大阪の天王寺というところにある中高一貫の大阪星光学院という学校に通っていたのだが、僕が住んでいた京都の田舎からは通学に往復3時間かかった。中学高校の思い出を振り返る時、一番最初に浮かんでくるのはJR大和路線の車窓からの風景だ。12歳から18歳まで毎日一人で電車に揺られて眺めた景色が、自分の中学高校の思い出の大半を占めていると思うと今更ながらなんとも切ない。

 

 男子校で彼女もいなかった僕の唯一の楽しみは、GARLICBOYSやヌンチャクというバンドがやっているハードコア・パンクと呼ばれるジャンルのライブを見に行くことだった。ライブのチケットを買うのが精一杯で、あそこに座っている彼らのようにバンドTシャツまで買うことはできなかった。同じ趣味の友人がいなかったのでいつも一人でライブに行っていたのだが、それでも楽しかった。

 

 ハードコア・パンクのライブに行くと自分が抱えている嫌なことも煩わしいことも全て忘れることができた。そしてライブの帰り道には「明日からまた頑張ろう」と心から思えた。本当に僕はハードコア・パンクに救われたと思うし、今でもそうだ。きっと、あそこに座っている彼らも高校生なりに辛いことや悩みもあるはずだと思う。でも心配はいらない。僕らは今日ECHOESで奏でられる音楽によって救われるのだから。

 

 カレーを食べ終わって僕が席を立つと、奥に座っていた彼らも立ち上がった。僕は先に店を出てエスカレーターに乗ったが、店で背中を向けて座っていた方の彼がどのバンドのTシャツを着ているのかが気になったので、さり気なく後ろを振り返った。すると後ろには、高校生のカップルが腕を組んでイチャついていた。

 

 背中を向けて座っていたのはショートカットの女の子だった。

 

 僕は、こいつらは仲間じゃないと思った。

 

 ハードコア・パンクよ、今日も全て忘れさせてくれ…