人生において運悪く「ジョーカー」を引かされた、社会の片隅のどこにでもいる普通の男達。
ここでいう「ジョーカー」とはトランプのババ抜きのババ、「不運な」という意味。

戦後~高度成長期、東北帝大を卒業後シェア日本一を誇るビール会社の日之出麦酒に就職するも、労働組合運動に関わったことで解雇された兄の死をきっかけとして。
また、偶然、教授の推薦状をもらいながら日之出麦酒の採用試験を受けるも、その後、自殺してしまった孫を持つ、年老いた一人の小さな薬局店主。

警察という組織になじめず、誘拐・企業脅迫の犯行に走った所轄のノンキャリアの現役警察官。

両親の顔も知らず施設で育ち、下町の町工場で働く旋盤工の若者。

在日朝鮮人3世であり、親族は大きなパチンコ業を営むも金銭的・環境的に問題を抱える信用金庫職員。

元自衛官のトラック運転手、だが重度の障害をもつ娘(レディ)を持ち、またそのせいで自殺未遂を図った妻を持つ男。

この5人は競馬場で知り合った、単なる競馬仲間であったが。
それぞれ、人生において「ジョーカー」をつかまされたとの思いからか、誘拐・企業恐喝を思いつき、実行に移していく。


「深い意味はないんだ。爺さんの人生がたまたまそういうところへ来た、というだけで」
犯行を思いついた年老いた薬局店主。

「人質は350万キロリットルのビールだ 」
業界のガリバー・日之出麦酒を狙った未曾有の企業テロ。

犯行グループに現職警察官が加わってる疑いがあることに動揺をみせる警察上層部。

また、この5人の思惑とは全く別の世界で、かつての総会屋に対する利益供与事件が絡み。
日之出麦酒へ山林の土地を不当な価格で購入するよう、執拗に迫る総会屋とそのバックの大物政治家。

株価操作で大儲けしようと闇社会の住人たちも跋扈し、それを追っていた社会部記者が突然失踪するなど、犯罪がさらに犯罪を生んでいく。

戦後、高度成長期~バブル・バブル崩壊まで、企業・政治家・総会屋・暴力団・警察・マスコミ・・・
多くの登場人物が、それぞれの視点で事件に絡んでいく。

果たして犯行の真相は・・・
そして、レディ・ジョーカーの行方は・・・


あの「グリコ・森永事件」から着想を得て書かれた作品と言われてます。

この事件そのものも未解決で、不透明な部分を数多く残したままの事件でしたね。
高村さんはこの作品の中で、この事件をモチーフにして、戦後日本の政治・経済・企業・警察・闇社会とそこに生きる社会的強者と弱者を描いています。

主要人物を一人一人丁寧に描いたうえで、この事件を犯人側、企業側、警察側、新聞社側をそれぞれ丹念に描き出していく。

高村さんの作品は好きで、ほとんどの作品は読みました。

おなじみの高村さん独特の、どこまでも、気が遠くなるくらいに、精緻で細かい描写。
ハードカバーで上下巻900ページ、びっしりと埋まった活字。

また高村さんの作品では大人気の、あの合田刑事も登場。

99年の「このミステリーがすごい!」大賞の第1位を獲得。

かなり読み応えのある作品でした。