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さて、07年最初の映画鑑賞が「ブロークバック・マウンテン」で、レビュー1発目です。

1963年のアメリカ、中西部のワイオミング州。
二人の二十歳の青年はそれぞれ事情があり職を求めていた。

彼女との結婚を控えていたイニス(ヒース・レジャー)は結婚資金を。
ジャック(ジェイク・ギレンホール)は将来、自分の牧場を持つために。

そんな二人は、ブロークバックマウンテンという山で、アギーレという男からテント暮らしをしながら羊の放牧をする仕事を得る。

寡黙で静のイニスに対し、陽気で動のジャック。

最初はジャックが話をし、イニスが聞き役に回っていたが、時が経つにつれイニスも少しずつ自分を出せるようになり、やがて二人は親交を深めていく。

一方、休みなしの自然の中でのキャンプ生活は二人が気付かない内に精神的にも肉体的にも疲弊させていった。
ある晩、酔ったイニスは、ジャックの言うことも聞かず冷え込むテント外で毛布にくるまって寝てしまう。
夜明け前、寒さで目が覚めたイニスは急いでテントの中に駆け込む。

彼が入ってきた事に気付き、冷え切った体を、抱きしめ暖めてあげるジャック。そして・・・

この晩の出来事を境に、二人の間には友情から、別の感情が支配するようになり、これからの長い互いの人生を大きく変えていくのだった・・・


まだまだ保守的な時代である60年代。
しかも最も保守的な考え・風習が強いアメリカの西部。

イニスは寡黙であまり自分の感情を面に出すタイプではないが、愛する彼女のために職を求める青年。
幼少時、ゲイと噂された男性がリンチを受け惨殺された死体を見せられ、それが彼のトラウマになってるのか?
彼のゲイに対する気持ち、何事にも悲観的なところ、また、自分自身を好きになれない性格。

一方ジャックは陽気でおしゃべりで、将来牧場を持ちたいという気持ちは強いが、ロデオ大会に出場し、その賞金で食いつないでるのが現実。
また、あの一晩以降、ゲイの世界に傾倒していく彼・・・

63年に出会った後、20年もの間、お互いに気持ちを寄せ合ってた二人。
人は誰でも心の中に「あの時に帰りたい」とか「あの場所に戻りたい」というのがあると思う。
それがその人の、「心の拠り所」となるものなんでしょうね。

この二人にとっては、出会って最初の夏を過ごした「ブロークバックマウンテン」がそれであり、
「ブロークバックマウンテン」での日々が、その後の二人にとって忘れられない、かけがえのない日々だったんでしょう。

しかし、その後の二人は、決して幸福な人生を送ったわけではなかった。

愛する妻と二人の娘に恵まれるも、貧しい暮らしから脱出できないイニス。

裕福な家庭の娘と結婚し、不自由のない生活を送るが愛のない空虚な家庭のジャック。


20年間、何度も「二人で牧場を作ろう」というジャックの誘いに答えられなかったイニス。

「俺たちにあるのは、ブロークバック・マウンテンの思い出だけ!」と最後の出会いで叫んだジャック。

時代が、社会がそんな二人をまだ許さない状況であったし、どうすることもできなかった二人。


二人の愛はなんの計算も打算もなく、惹かれあった末に芽生えたもの。

それだけに、真っ正直で純粋な愛だったと思う。
しかし、当時の状況では絶対に受け入れられない、ヘタすれば殺される恐れもあるような愛。

それだけに、ジャックの誘いに踏み切れなかったイニス。


ジャックの死後、彼の実家を訪れ、自分を愛してくれていた彼の気持ちを再び知ったイニスの姿に、
またラストシーン、最愛の末娘が結婚の報告に来て、帰った後、ほんとに一人になった時の彼・・・

無償の愛だからか、やっぱ涙腺が緩みました。


この作品、同時期に公開された「クラッシュ」にアカデミー作品賞は持っていかれました。
「クラッシュ」はそれぞれ背景のある、多くの人物を出演させた群像劇でそれぞれが鎖のように繋がってる。

この「ブロークバック・マウンテン」も二人を取り巻く家族の苦悩の連鎖が哀しい。

夫の浮気、しかも相手が男であった現場を目撃したイアンの妻のアルマ。
まだ幼い二人の子供の面倒を看ながら、長い間、夫の浮気に耐え続けた姿は痛ましかった。

両親の離婚後も健やかに成長し、やがて結婚の報告にくる優しい娘。

愛のないことを知った後は、仮面夫婦として、家業の農耕機の販売事業に精力を向けるジャックの妻ラリーン。
ジャックのことを疎ましく思う、農耕機販売で成功を収めたラリーンの両親。

牧場を失い、今でも片田舎でひっそり暮らすジャックの両親。

特にイアンの妻、アルマ役のミシェル・ウィリアムズの痛々しい表情は、見ていて辛かった。


H・レジャーとJ・ギレンホールの対照的な演技も良かったし、M・ウィリアムズの苦悩を抱えた妻役もよかった。
切なく、哀しい話でしたが、美しい自然の風景と優しい音楽が印象に残りました。★★★★★