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「ミリオンダラー・ベイビー」    クリント・イーストウッド製作・監督・主演。

ミズーリ州の田舎町のトレーラーハウスで家族と育ったマギー(ヒラリー・スワンク)。
13才からウェイトレスを続け、ロスで一人暮らししながら少しずつ貯金とトレーニングをする毎日。
そんな中で、彼女がひとつだけ憧れていたものがボクシングであった。

その思いを胸に彼女は名トレーナーのフランキー(クリント・イーストウッド)のジムを訪れ、弟子入りを志願する。
しかし、彼は「女性ボクサーは取らない」と言ってマギーをすげなく追い返す。
だが、これが最後のチャンスだと覚悟するマギーは、半年分の会費を前払いし強引にジムに入会。

黙々と練習を続ける彼女。
そんな彼女の味方をするのは、ジムで住み込みの雑用係をやっている元ボクサーのスクラップ(モーガン・フリーマン)。
しかし、フランキーは「プロを育てるには4年必要だ。31歳でバレリーナを志すか?」と彼女を突き放す。
彼の言葉に、唇を噛みしめながら、彼の顔を凝視するマギー。

一方、フランキーはボクシングが原因で妻とは離婚。
娘へ数百通もの手紙を送るが「受取拒否」で返戻される。

過去を悔いてか、20年以上欠かさずミサで教会へと赴く彼。

しばらく経ったある日、マギーの誕生日だということを聞いたフランキーは彼女に「いくつになった?」と。
フランキーの問いに、「32歳」と答え、さらに
「また1年が過ぎたわ。13の時からウェイトレスをし続け、私の弟は刑務所。妹は不正申請で生活保護。父は死に、母は145キロのデブ。本当なら故郷へ帰って、中古トレーラーで暮らすべきなのよ。でもこれが楽しいの。年だなんて言わないで」と、 彼女の口から今までの人生、ボクシングへの想いが一気に吐露される。

この日から、フランキーはマギーのトレーナーになることを引き受け、二人でトレーニングをする日々が続く。
やがて、試合にも出場し勝利を続ける彼女。
ついに100万ドルのファイトマネー(ミリオンダラー)を賭けたタイトル・マッチをするまでになる。対戦相手は、汚い手を使うことで知られるドイツ人ボクサーのビリー。

果たして、試合の結果は・・・
そして、二人を待ち受ける、長く、過酷な運命は・・・



この映画、2004年度アカデミー賞で主要7部門にノミネートされ、結果、作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞の4部門でオスカーを勝ち取った作品。

しかし、私はほとんど予備知識なしで観ましたので、イーストウッドがボクシングを題材にした「スポ根もの」かと思ってましたが、全く違いました。

「人の尊厳」がテーマでもあるが、イーストウッド自身は「これはシンプルなラブストーリーだ」という。
苦労し続けた人生の中で、やっと自分の好きなことを始められ、成功の第一歩と金を手に入れたマギー。
家族のためにと、故郷に家を購入するが「生活保護を止められる」「現金の方が良かった」等と非難される。

彼女の唯一の理解者だった父親を早くに亡くし、その父の面影をフランキーに見出したのか。

またフランキーも、疎遠となった娘への悔恨の思いが、マギーへの情愛へとなったのか。


最後の試合後、マギーをずっと看病し続け、最後の決断を下した彼。

マギーはトレーニングの時も、試合の時もずっとフランキーの言い付けを守ってきた。
「自分の身を守れ」
「何も質問するな」
「ファイトだけでは勝てない」
「ボクシングは相手の尊厳を奪う競技だ」
そして、
「油断するな」

しかし、最後の試合となったビリー戦の最後の最後でたった一つ、ほんの一瞬、言い付けを忘れてしまい、それが悲劇につながる。

彼は決断を下すが、彼もまたマギーとの約束は果たす。
「私には、もうあなたしかいない」と言われ「頼りにしていい」と返した言葉。
彼女に「尊厳」を与えた彼。
そして、決して彼女を一人にしなかった彼。

同じような孤独と喪失感を背負って生きた二人の絆を思うと、胸が熱くなってきます。★★★★★


この作品、「スポ根もの」と思ってた方や、「アカデミー受賞」ということで、期待していた方からは辛辣な意見、また希望の見出せない結末に嫌悪感を感じる方も多かったみたいですね。
中には「なんでお金払ってまで、こんな救いのない映画観やなあかんねん」っていう方も。

「許されざる者」「ミスティック・リバー」と続き本作。
確かにイーストウッドは、救われない人々、人生の不条理、そして今回の「人の尊厳」と重たいテーマを扱ってる。
でも、どうしても娯楽一辺倒、または刺激的な作品を追いがちになるハリウッドでは、このイーストウッド、自己満足なだけやという方もいますが、彼の存在は非常に大きいと思います。