星をつなぐ手 村山早紀  | 2018年 本棚への旅

2018年 本棚への旅

年間200冊の本を読む活字とインクの森の住人、
ピロシキ亭のシロクマおじさんの読書録です



#星をつなぐ手 #村山早紀  304頁

#桜風堂ものがたり、#百貨の魔法、と続いた本好きにとってかけがえのない夢物語は残念ながら本作で完結します。
星野百貨店と銀河堂書店のある小さな地方都市、風早市。
そして辺鄙な山奥の美しい里、桜野町にある桜風堂書店。
前作に続いて田舎の小さな書店を継いだ月原一整が戸惑いながらも本がつなぐ縁で繋がった友人たちの助けを借りて店を再生してゆく物語。



二つの土地と書店をつなぐ書店員と作家と読者の物語が終わってしまうのはとても淋しかった。
これを読み終わればこの世界は終わってしまう、彼等の新しい物語はもう読めないのか・・・と結果はわかっているのに後半は登場人物たち全員が手をつないで長距離走のゴールテープに一斉に走ってゆくような盛り上がりに押されて一気に読んでしまった。

結末に向かって残り少なくなってゆく頁に表れる世界は限りなく美しく、そして優しい。
読者によっては、村山さんの筆致なり登場人物たちや展開があまりにもリリカルでメルヘンチックに描かれるため、それに自醜の念を感じたり、物語に入り込めない方もいるかもしれない。

だが、それらは全て作者の本と書店に対する溢れんばかりの愛情故なのだ、どうか理解してほしい。共感してほしい。



物語後半で一人の傷心の少女が月原の編んだ書店の棚を見て感心する場面を読んでみればわかる。
図書館とも大型書店とも違う。店主のこだわりと熱がこもった棚とはどんなものか?自分もこの棚の前に立っているような気になるのだ。
そしてはるばるこの本屋を訪れてみたい、あわよくばここで働いて自分の棚を作ってみたい、そんな思いを抱かせる。

たまには涙腺を緩めて優しい気持ちでこの書店と本にとって生きづらい世界を見直してあげても良いではないか。
まだ本は、書店は棄てたものじゃないのだと。

直木賞も取れなくてもいい。本屋大賞だって1位は取れないかもしれない。だがこの本は全国の書店員が、自分たちのために押したい一番の本のはずだ。



書店員が自分の本屋から自分の為に買って家の本棚の一番良い場所に挿す、
そして書店ではこの本を買ってくれたお客様に、何か二言三言無性に話しかけたくなる、仔猫をもらって戴くような気分でこの本を託したくなる。

きっとそんな本のはずだ。なんて幸せな本なんだろう。