九州の黒崎に出張することになった。

 

 

鰻の名店があると聞き、場所を調べる。

駅からも宿からも、徒歩圏内だ。

宿にチェックインし、お店へ向かう。

 

凛とした店構え、店員さんの対応、美味しい鰻を出す店に共通の雰囲気。

これは期待できる。

 

 

せいろ蒸しで有名なようだが、鰻重の竹を注文。

うざくやう巻きでビールといきたいところだが、1人ではそれほど食べられないだろう。ここは我慢。

 

先客に鰻が供される。

せいろ蒸しとうな重。

早く食べたい。

鰻は時間がかかるものだが、話し相手がいないと結構退屈。

 

お品書きに目を通す。

肝が不足しているので、肝吸いではないそうだ。

 

子供の頃、家の近くに美味しいうなぎやさんがあった。

今ほど選択肢がなかったこともあり、外食と言えばその店だった。

鰻重ではなく、鰻丼。ご飯の上だけではなく、ご飯の中にも鰻の層があり、二重になっていた。鰻に負けないほど美味しい自家製の漬物が添えられるのだが、なぜかお茶だけが決まって薄く、期待外れなのであった。

ご夫婦で営んでおられ、ご主人が音のする備長炭を扱い焼かれる鰻は皮目はぱりっと香ばしく、身はぷりぷりで、おいしかった。

家を離れてからも帰省するたびに必ず訪れていた。

調理場に息子さんも入られるようになり、後を継がれるのだろうと思って安心していたが、ある年帰省し、店を畳まれたことを知った。

わかっていたら、最後にもう一度あの鰻を食べたかった。

 

そんなことを思い出していると、鰻重は供された。

 


 

丁寧な仕事。

熱々で供され、鰻はもちろんだが、御飯自体が美味しい。

鰻の持ち味を壊さないような焼き、味付け。

御飯にかかるたれが少ないかと思い食べ始めるが、多ければ焼きの工程で鰻のぱりっとした皮に付いた、濃縮されたたれの味わいがなくなってしまうからだろうと考える。

 

お吸い物も漬物も美味しかった。

 

関西風でもない、関東風でもない。九州風なのだろうか。

また食べたい鰻重であった。

ごちそうさま。