『もっと悪い妻』

(桐野夏生著  文藝春秋)

 

 

 

短編が6本。それぞれ別のお話です。

 

『悪い妻』に続く第2弾だったのかなと思いきや、「悪い妻」も「もっと悪い妻」もありました。

 

 

6話それぞれに悪いと思われるであろう妻がでてきます。

 

でも本人たちはいたって普通だと思っています。

 

 

この世に悪い妻なんていないのです。

 

 

 

「もっと悪い妻」の麻耶です。

 

 

麻耶は37歳で、翔太郎は39歳。二人は大学時代に付き合っていた。

 

同じ文学部で、映画サークルで知り合った。もっとも翔太郎は1年も経たないうちに辞めてしまったが。

 

 

たまたま学内で会った時、麻耶は「どうしてサークル辞めちゃったんですか?」と翔太郎に聞いた。

 

すると、翔太郎は「面白いヤツが一人もいないから、つまらなかった」と答えた。

 

翔太郎にとって、自分も面白くない人間に一人だったのか、と少し傷ついたものの、その言葉に毒されたらしく、麻耶も盛り下がって退部してしまった。

 

 

その後、駅でばったり会ったら飲みに誘われて、付き合うようになった。翔太郎とは趣味も気も合って、どんどん好きになった。

 

 

翔太郎は大学を卒業した後、商社に就職した。短期間、大阪支社に行かされたりして、なかなか会えなくなった。

 

やっと東京に戻ってきたと思ったら、新しい彼女ができたと打ち明けられた。相手は、同じ部署の5歳上の女だという。

 

 

やはり自分は翔太郎にとって、「面白くないヤツ」の一人だったのか、と麻耶は深く傷ついた。

 

立ち上がれないと思ったのだが、就職したIT会社で新と知り合い、その傷を少しは癒すことができたのだった。

 

 

新はマイペースで、人によっては苛立ちを感じるという輩(やから)もいる。

 

しかし、普段は無口なのに、口を開くとぽつりと的確で面白いことを言うような、どこか超越しているところがあった。

 

活発で、どちらかというと喋り過ぎるきらいさえある麻耶には、新は物足りなくもあったが、とにもかくにも信頼できた。

 

 

やがて翔太郎がその年上の女と結婚した、と風の噂に聞いた。麻耶は張り合うように新と結婚した。

 

なのに、思いもかけず翔太郎と再会したのは、その1年後である。

 

 

二人が元の鞘(さや)に戻るのは、あまり時間がかからなかった。その日のうちに、懐かしいね、これも縁だね、と食事に行き、1週間後にはラブホテルにいた。

 

以来、8年間、大学時代よりも親しく付き合っている。

 

 

ある日、美織が寝静まった後、二人でAmazonで映画を観ている時だった。

 

ダニエル・クレイグの出ているアクション映画を、新がリモコンで止めた。怪訝(けげん)な顔で見上げる麻耶に、新が訊ねたのだ。

 

 

「麻耶は、誰かと会ってるの?」

 

唐突だったので驚いた。

 

「どういう意味?」

 

「いや、意味はないよ。麻耶が大事だと思っている人が他にいるのかって聞いてるだけ」

 

「いるよ」

 

麻耶は自然に肯(うなず)いていた。「大事だと思っている」という新の言葉が、とてもしっくりしたのだ。翔太郎のことを大事に思っていた。

 

 

「それはやめられないんだね?」

 

溜息も苛立ちも感じられない静かな声だった。

 

「そうなの、だって、親友なんだもの」

 

「わかる。でも、男なんだよね?」

 

「そう。男でも親友になるよ」

 

女の親友とは寝ることができないけれど、男の親友とは寝ることができる。それは互いに異性であることの、ものすごい利点ではないだろうか。

 

 

「それはそうだろうけど、困ったな」

 

新はそういったが、あまり困っていないように見えた。

 

「何で困るの?」

 

「バランスが悪いからだよ」

 

「だったら、新ちゃんも誰か探すといいよ」

 

本心だった。新も同じように男女を超えた親友を作ればいい。それが女の親友で寝たいのならば新も寝ればいい。

 

 

ところが、新はこう言う。

 

「そんな人間とは滅多に出会わないよ」

 

麻耶は、その通りだと思った。外見が好きで、趣味も話も気も合って、価値観も同じで、ずっと一緒にいたい人なんて、一生のうちに何人も出会わない。

 

多分、一人か二人。いや、まったく出会わない人もいるだろう。

 

翔太郎も新もその貴重な一人なんだから、二人とも大事にしてもいいではないか。

 

無茶苦茶な論理ではなく、むしろ自分にとっての大切な真実だ。

 

 

「麻耶はそんな人間の一人なんだよ。だから、俺は別れないよ」

 

新も低い声でぼそぼそと言ったので、麻耶は感激して「ありがとう」と答えた。

 

「私、新が大好き」

 

 

でも、翔太郎も大好きだ。夫の新と翔太郎。麻耶は二人と別れることなんか想像もできなかった。どちらかを選ぶなんてできない。

 

新がいるから翔太郎と付き合えるのだし、翔太郎がいるから新との生活も好きになる。

 

二人の男は自分という女が生きてゆく上で、絶対に必要な存在なのだ。

 

 

 

 

 

 

なんて羨ましい!

 

 

逆の立場になったらそんなこと言ってられないと思うけど、お話の中のことなんだからね。

 

楽しませていただきました。

 

 

 

 

そしてまた新しいクールが始まりました。

 

この前のはうちの弁護士とパリピとこたつといちばん好きな花かな。

 

忘れてるだけでもっとあったのかもしれないけど、思い出せるのが好きななドラマだったってことで。。

 

 

とりあえず一通り見始めてるから、どれにはまるのか楽しみ。

 

 

おっさんずラブは、年数を経てこの熱量を維持できてるってすごい。前作が跳ねたからかな。

 

 

 

おらわくわくすっぞニコ