博士の愛した数式 (新潮文庫)/新潮社
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【内容】家政婦紹介組合から『私』が派遣された先は、80分しか記憶が持たない元数学者「博士」の家だった。こよなく数学を愛し、他に全く興味を示さない博士に、「私」は少なからず困惑する。ある日、「私」に10歳の息子がいることを知った博士は、幼い子供が独りぼっちで母親の帰りを待っていることに居たたまれなくなり、次の日からは息子を連れてくるようにと言う。次の日連れてきた「私」の息子の頭を撫でながら、博士は彼を「ルート」と名付け、その日から3人の日々は温かさに満ちたものに変わってゆく。


読んだのは2/29でした。4年に一度しか来ないこの特別な数字を持つ日に、特別な作品を読みたかったのです。2月は小川洋子さんにはまり、10作近く読ませていただきましたが、本作が一番好きだなあと思いました。解説に藤原正彦教授が書かれているとおり、まさに文学と数学の結婚。奇跡のような小説でした。キラキラ


友愛数で結ばれ、友情とも愛情ともつかぬ想いを互いに抱いた家政婦の私と博士、ルース=アーロン・ペアで結ばれ、野球によって年齢差を超えて親友となった博士とルート、完全数を背負いみんなのヒーローであり続けた江夏・・・。何もかもが完璧にリンクするという不思議。絶頂期の江夏が完全な人の姿であるなら、この物語の登場人物たちはみな不完全です。不完全だから、完全なものに憧れる。そして不完全だからこそ、互いに手を取り合い、思いもよらないドラマが生まれるのだと感じました。"perfection of a quite inperfect world"なんて詞を思い出しました。


博士のルートに対する愛情を見ていると、不完全である自己を受容したとき人が求めるのは、未来ある子どもなのだなぁと感じます。博士は、持っていたものをなくしていくという不完全さですが、ルートはこれから持ち物が増えていくという真逆の不完全さです。ルートがこれから辿っていくルートは、未だ誰にも分からない。過去を繰り返すことしかできない博士にとって、ルートの存在が未来への希望だったのだろうと思います。


先に書いたとおり、解説は藤原正彦教授です。お二人は共著も出されていますが、もともと本書の取材で出会ったのですね。なんだかここにも不思議な縁を感じました。小川洋子さんのお母様は藤原教授のお母様の著書『流れる星は生きている』を読んでおり、そのお話は正彦少年の無邪気さがなければ生きて帰国できなかったというものであり、正彦少年はのちに数学者となり、小川さんはタイガースファンであり…このうちどれかひとつでもピースが欠けていたら、この素晴らしい作品も生まれなかったかもしれないのです。 きっと「神様の手帳」には、小川さんがこの小説を生み出すことも、書かれていたのかもしれません。


【関連読書】



▼小川さんと藤原教授の共著

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)/筑摩書房

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▼藤原教授のお母さま、藤原ていさんの著書

流れる星は生きている (中公文庫BIBLIO20世紀)/中央公論新社
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▼こちらの本で紹介されています

心と響き合う読書案内 (PHP新書)/PHP研究所
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