政府の年金財政検証からは、今後「食べていくために働き続けなければならない」高齢者の激増が予想される

政府の年金財政検証からは、今後「食べていくために働き続けなければならない」高齢者の激増が予想される

 

 高齢者の就業者数が20年連続で増加し、過去最多の914万人に達している“高齢先進国”ニッポン。

その中で、日本政府は現在、高齢者雇用の環境整備の強化を急いでいる。

 

その背景にあるのが「これから高齢者になる世代」の老後生活対策だという。どういうことか? 

人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏が解説する

【前後編の後編】。

 

* * *
 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によれば、2043年まで高齢者数は増え続けると予測されているが、それは「75歳以上人口」が増え続けて数字を押し上げていくためだ。

高齢就業者の中心である「65~74歳人口」はすでに2016年にピークアウトして、減少に転じている。

 

 こうした推計値をよそに、政府は高齢者の就業促進を強化しようとしている。

2025年4月からは高年齢者雇用確保措置として、希望者全員の65歳までの雇用機会の確保を義務化する。

この結果、企業側は、

 

(1)定年廃止
(2)定年年齢の65歳までの引き上げ
(3)希望者の継続雇用制度の導入

 のいずれかを講じなければならなくなる。2021年には、65~70歳までの雇用についても努力義務とした。

 

 また、高齢社会対策大綱では「働き方に中立的な年金制度の構築を目指す」として、在職老齢年金(賃金と厚生年金の合計が月額50万円を超すと年金額がカットされる仕組み)の見直しの検討を示した。

さらに大綱は2029年の65~69歳の就業率を2023年比5ポイント引き上げ、57%とする政府目標も盛り込んだ。

 

 政府が高齢者雇用の環境整備の強化を急ぐのは、高齢就業者の中心を担う65~74歳人口の目減り分を就労促進でカバーしたいという足元の人手不足解消策としての期待もある。だが、それ以上に大きいのが「少し先を見越した対策」としての意味合いだ。

 

就職氷河期世代を中心とした「これから高齢者となる世代」の老後生活対策である。いわば、今後起きる高齢者就業の激変に対する備えである。

 

1974年度生まれの男性4割、女性は6割近くが月額10万円未満に

 というのも、就職氷河期世代は非正規雇用が多く、年金保険料の納付が途切れたり、支払うことが出来なかったりして年金加入期間が短い人が少なくないからだ。

正規雇用であっても賃金上昇カーブが抑制され、十分な老後資金を蓄え切れないまま定年退職を迎える人が相当数出てくることが予想される。

 

 賃金が抑制された影響は、そのまま年金受給額に反映する。

しかも年金制度は現行のままならば減額調整が2057年度まで続く。今後の高齢者には、現在の高齢者と比べて豊かとは言い難い状況の人が増えるということである。

 

その姿は、厚生労働省が7月に公表した年金財政検証に見て取れる。

 年代ごとに65歳時点で受け取る年金額(現在の物価水準ベース)の見通しを比較しているが、経済が大きく成長しない場合には就職氷河期にあたる1974年度生まれの39.1%が月額10万円未満になると試算しているのだ。

 

このうち18.1%が月7万円未満だ。月5万円未満も5.7%である。女性に限れば、57.1%と6割近くが月額10万円未満になると予測している。

老齢年金の年金月額分布

老齢年金の年金月額分布

 

 もちろん就職氷河期世代だけが特別な状況にあるわけではない。その前の世代にもデフレ経済の影響などを受けて、勤務先企業が倒産したり、リストラに遭ったりして転職や不安定な雇用に追いやられた人は少なくない。

 

これから高齢者に加わる世代というのは、「新卒で入社した会社に定年まで勤めあげる」といったひと昔前の世代においては常識と考えられてきたことが当たり前ではなくなった世代でもあるのだ。

 

 それは、今後の高齢就業者を取り巻く環境が激変することを意味している。年金受給額も老後の蓄えも十分でなく、「食べていくために働き続けなければならない」という高齢者の激増が予想される。