ことりの墓
私が通っていた幼稚園は、その当時は園バスがなく、朝の登園と帰りは親が園まで直接来ていた。
帰る時間になると、教室で帰りのあいさつやら歌やらをうたい、いっせいに園庭に出ていく。
お母さんたちは、だいたいその時間になると園庭に集まっていて、飛び出してきた自分の子と手を繋いで家路につき、
まだお迎えが来ていない子は、そのまま園庭で遊んで待っていた。
私の母は働いていたので早めに来て待っているということはほとんどなく、帰りの時間はかなり長く園庭で遊んでいた。
子どもは何時間でも遊んでいたい生き物なので、早くお迎えが来てしまった子にはいつも羨ましがられていた。
そんなある日、いつものように母のお迎えを待ちながら、何人かで「宝探し〜」と言いながら
木の枝を持ってあちこちつついて園庭の隅を歩き回っていた。
敷地の隅の、じめっとした陽の当たらない茂みの中にそれはあった。
一見、カチカチになったボロ雑巾のようで、近づいてよく見ると、それは鳥の死骸だった。
雀でも鳩でもカラスでもなかったと思う。大きさは雀と鳩の中間ぐらい。
死んでからかなり時間が経ったらしく、色は灰色なのか、元々は白だったのか分からない状態だった。
私たちはしばらく観察した後、お墓を作って埋めることにしました。
どこに埋めようかと話し合っていた時、担任の先生が教室の前から大声で私を呼ぶのが聞こえた。
母も一緒で、母は私が見つからないので先生に聞いたようだった。
私は先生と母の所に走って行き、鳥のお墓を作るから待っていて、と言った。
でも、母は仕事を中断して迎えに来ていたので急いでおり、「いいから帰るよ。カバン持ってきて。」と言った。
先生も、お母さんが待ってるから早くしなさい、と言うので、私は2人を説得するために、急いで鳥の所まで走って行き、
それをつかんで2人の所へ持って行った。
まだ若い先生はキャーー!っとものすごい叫び声を上げ、母も後ずさりして2人から同時に「元のところに捨ててきなさい!」と怒られた。
その剣幕がすごかったので、私は仕方なく鳥の死骸を持ったまま、また元の茂みの所に戻った。
さっき一緒にいた子たちはもう帰ったのか誰もいなくなり、私は1人でそっと茂みの中に戻し、
悪い男の子たちに見つからないように隠した。
そして、母たちのところに戻り、外の手洗い場に連れていかれて散々手を洗われて帰った。
帰り道、うちの隣に住む小学2年生のテルヨちゃんに会った。
テルヨちゃんも下校途中だったので、一緒に家に向かって歩きながら、私は彼女にさっきの話をした。
「すごくボロボロで可哀想な鳥だったんだよ。お墓作ってあげたかったのに〜。」
と、テルヨちゃんに愚痴りながら家の前の路地に入った時、テルヨちゃんが、
「あれ?〇〇ちゃん(私)ちの前に何かあるよ。」と言った。
2人で私の家の前にかけよると、玄関のドアのすぐ下に、さっき幼稚園の園庭に置いてきた鳥の死骸があった。
これは絶対に、間違いなく、別の鳥ではない。
大きさ、汚れて雑巾のようになった色、ひしゃげた形、ほぼ朽ちた目玉、
幼稚園の園庭で見つけた時、細部までしげしげと見つめたあの鳥そのものだった。
ほんの10分程前に私が手のひらに乗せて、「ごめんね。」と言いながら茂みに戻した鳥だった。
それはまるで、誰かがお届け物を持って来て、留守だったから、すぐ分かるように玄関の下にそっと置いたようにそこにあった。
私はパニックになり、母に
「さっきの鳥!!!さっきお庭に置いてきた鳥が先に家に着いてる!」と大騒ぎをした。
母はろくに見もしないで
「やだ、また鳥?!草っ原のとこに捨ててきて!」と言った。私は必死で
「これはさっき幼稚園にいた鳥だよっ。ついてきちゃったんだよ。」と言ったが母は聞いてくれず、
しかたなくテルヨちゃんと一緒に家のすぐ前の空き地のすみに置いた。
手に乗せた感じも、大きさも軽さも何もかも、さっきの鳥と同じだった。
さっきまでの「可哀そう」という気持ちはどこかに吹っ飛び、正直、気持ち悪さと恐ろしさでいっぱいだった。
取りつかれたんじゃないかと思った。
そして母に、あの鳥の死骸は私が幼稚園で見つけたのと全く同じで、あの鳥がお墓を作ってほしくてついてきたんじゃないかと力説した。
しかし母は全く信じず、ただ
「そんな事があるわけないでしょ。でも1日に2回も死んだ鳥を見るなんてやーねぇ。」と言っていた。
私は着替えて、母がまた仕事に戻るのを待ち、急いで外に出てさっき鳥を置いた場所に走っていった。
おそろしくて堪らなかった。お墓を作るって言ったのに帰ってしまったので恨まれると思った。
すぐわかる場所に置いたのに、鳥はいなかった。
ついさっき置いたばかりなのに、半分朽ちかけた死骸が生き返るとも思えない。
あきらめきれずにずっとウロウロしていると、テルヨちゃんも出てきて2人で夕方まで探したが、ついにみつからなかった。
あの鳥、絶対に私についてきた。
お墓を作ってあげないで捨てたから、これからもずっとついてくるような気がした。
なんとしてでもお墓を作らないと…
私は仕事を終えて帰ってきた母に、幼稚園に見に行きたいと頼んだが、もちろん聞き入れられなかった。
夜になって姉が
「猫が持ってっちゃったんじゃない?」と言ったので、なんとなくそれで諦めがついた。
翌朝、幼稚園の園庭を探したが、やはりもうあの鳥の死骸はなくなっていた。
それからしばらくの間、私は家に帰る時、玄関の前を見るのが怖くて仕方がなかった。
終
