娘は取り憑かれている。
こう書くと、
霊的な話かと思われるかもしれない。
違う。
娘が取り憑かれているのは、
「玉子焼き」に、である。
子どものマイブームって、
突然やってこないだろうか。
昨日まで見向きもしなかったものに、
突然ハマる。
そして、
親まで巻き込まれる。
これ、我が家だけだろうか。
今回の始まりは、
「ねぇ、なんか料理がしたい」
だった。
そこで私は、
何気なく言ってしまった。
「玉子焼きでも作ってみる?」
この一言に、
娘が食いついた。
「やる!」

そこから、
玉子焼き。
玉子焼き。
また玉子焼き。
1個。
2個。
3個。
そして、
現在4個目。

いやいや。
そんなに作る?
と思いながら、
私は黙って見守る。
子どもが「やりたい」と言っている。
できるだけやらせてあげたい。
でも、
卵は無限じゃない。
そしてついに、
卵がなくなった。
強制終了。
ふぅ……。
終わった。
そう。
とりあえず終わった。

とりあえず。
そして夜。
私は何も考えずに聞いてしまった。
「晩ごはん、何にしよっか?」
……。
やってしまった。
トリガーを引いた。
「玉子焼き!」
まだ終わってなかった。
第2ラウンド、開始。
また作る。
ひたすら作る。
玉子焼きを作る。
ここまでくると、
料理というより、
執念。

おいおい。
キミは、
玉子焼き屋さんにでもなるつもりか。
結局、

昼、4個。
夜、4個。
計8個。
たった一日の出来事だけど、
子どもの「やりたい」って、
本当にすごい。
大人なら、
「一回やったし、もういいか」
となるところを、
子どもは何度でもやる。
失敗しても、
またやる。
もちろん親としては、
「好きなことを見つけたなら、
やらせてあげたい」
と思う。
でも同時に、
「いや、親の体力と卵にも
限界があるんだが?」
とも思う。
子どもの成長を見守るって、
こういうことなのかもしれない。
感動だけじゃない。
疲れる。
面倒くさい。
振り回される。
そして、
たまに卵が16個なくなる。
でも後から思えば、
こういう「くだらない事件」ほど、
子どもが大きくなったとき、
妙に覚えているのかもしれない。
一日に8個作ったことあったよね」
なんて、
いつか笑って話せる日が来るのだろうか。
その頃には、
母はきっと言う。
「卵代、返して。」



