前回の続きでケイト・グリーナウェイを見ていこうと思います。
今回は、彼女の2冊の本についてご紹介します。
“ Marigold Garden ” (1880年)
大好評となった“ Under The Window ”に続く彼女の2番目の絵本が“ Marigold Garden ”です。
初版は、1880年にイギリスの“ George Routledge and Sons ”から発刊されました。非常に人気のある絵本なので、発刊当時から今日まで版権を移譲し発行所をかえながら何度も復刻されています。
初版の Publisher の表示は“London George Routledge and Sons, " です。
1885年には“ Fredrick Warne ”からも発行されるようになりました。
各々の刊頭に表記された Publisher は“ George Routledge and Sons, London, 1885 ”と “ Fredrick Warne and Co Ltd, London ”となります。
1900年代に入ってからは“ Fredrick Warne ”からの発行となり、1901~1910年までが
“ London: Frederick Warne & Co. ”となります。
以後、発行年の記入が無いものが多くなります。
その発行年を区別するために大体10年周期で発行者のアドレスの表記が変わりますので購入される方は注意してください。
これを憶えるのは意外と面倒です。調べてはいないのですがネットで検索すれば、そういった資料も見つかるかもしれません。
また「初版」と言っても“ First Edition ”と言う以外に“ First Edition, First Issue "となっているものが、いわゆる「初版第一刷」です。
中には“ Re-issue " 、“ New Edition ”もありますので複雑です。
僕も全く知識がなかった頃は大失敗をして高い買い物をしてしまったことがあります。$10くらいで買えるものを$120で買ったりしてしまいました。
思い返せば、今も失敗はありますが、あれで懲りてとんでもない失敗が少なくなったのではないかと思います。
勉強は大切ですが、できれば犠牲は最小限に留めたいものです。
話が別方向に行ってしまいました。刊記については他の機会にまた取り上げたいと思います。
“ Marigold Garden ”のオリジナル版は、木版で装丁、並びに、挿絵が刷られているので、よくみると刷りのための凹凸が紙面に残っています。文字も活版印刷のために裏側に凹凸がでます。機会がありましたら実物を手にとってご覧になってみてください。
グリーナウェイの絵本は日本でも人気があり翻訳版も出版されています。
新書館のペーパームーン叢書の知名度が高いと思いますが、翻訳版はオリジナルと最後のページが異なります。他にも扉・口絵のイラストの順序が異なっていますが大きな違いはページを分割したことです。
オリジナルの最後のイラストを上下で切って2ページに分けています。
オリジナルでは最終ページはイラスト無しの詩が添えてありますが、新書館版はそこに女の子の絵を入れてあります。
ページ割の都合やデザイナーの趣味など事情はあるでしょうが、元版通りにしていただいたほうが好いのではないかと思います。
新書館版の良いところは色調(装丁以外)をほぼ忠実に再現していることと、巻末に原詩と翻訳をまとめて収録していることです。また巻末の各ページにはセピアでイラストも加えられています。
2冊目にご紹介するのは、ケイトが作った最初の暦手帳 “ ALMANACK for 1883 ”です。
これはとても小さい本です。
ページ数も各冊、僅かに20頁程しかありません。携帯するのに邪魔にならないように作られた結果です。
大きさはページトップの写真で見比べていただけると分かり易いかと思います。
グリーナウェイは、1883年から1931年まで“ ALMANACK "と言う暦手帳を発行しています。
彼女は1901年に亡くなっていますので、彼女自身が手掛けたものは1897年までです。以後は彼女の作品から抜粋して編集されました。
1月から12月までのカレンダーと四季のイメージイラスト、それから、季節に合わせた子供達の遊びのイラストなどが描かれています。
グリーナウェイをラファエル前派の画家に結びつけ、無理にでも神秘主義に関わらせようとする方々も以前はいたようです。今は極めて少数となりましたが。
“ ALMANACK ”は単なる携帯用カレンダーで魔術的な時祷書ではありません。
グリーナウェイは18世紀の雰囲気と古典主義的な図像学に基づいて描いているに過ぎません。
当然、図像学は宗教的な色彩が強いものですから絵によってはその影響が色濃く見受けられますが、それはアカデミックな古典絵画と何ら変わるものではないのです。
あとは鑑賞する側の趣味と言うことにはなります…。
グリーナウェイについてはひとまずここでお仕舞にして、後ほどクレインとあわせて何冊か本をご紹介しようかと思っています。