ダブル・ジョーカー (角川文庫)/角川書店(角川グループパブリッシング)

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 部屋が驚くほど汚い。管理人です。
なんで部屋って汚くなるんだろう。極度のめんどくさがりというのは自覚しているけれど、気づいたら猛烈に汚い。あれだな、エントロピー増大の法則だな……。このブログを書いたら片付けようと思います。

 本日の本は柳広司さん『ダブル・ジョーカー』。先日書いた『ジョーカー・ゲーム』の続編ですね。前作が結構ヒットだったのですぐに手に入れて読んでしまいました。

 時は第二次世界大戦あたり。「魔王」と称されるほどの凄腕のスパイだった結城中佐によって陸軍内に独自に設立されたスパイ養成機関・通称D機関。今回も結城中佐とD機関のメンバー達が華麗な騙しあいを繰り広げます。

以下ネタバレ感想

①ダブル・ジョーカー

 なんとD機関にライバルが!風戸哲正陸軍中佐によって新たなスパイ組織・通称風機関が設立された。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」という教えの元に、あえて軍人を使わないD機関とは対照的に、「国のために喜んで死ね!進んで殺せ!」というガチガチの軍人ばかりで構成された風機関。組織の存続をかけて、白幡という英国スパイの逮捕に乗り出す両機関であったが……。

 「軍人である」ということだけで、すでに「とらわれて」しまっているのですね。満を持して登場する結城中佐のかっこいいことかっこいいこと。私の初老レーダーにギンギンにひっかかっていますよ。でもね、ちょっと風機関まぬけすぎないか……?D機関の人間が書生に化けて内部に侵入していることを突き止められないのはちょっとスパイ機関としてどうよ?
 まぁそんな瑣末なことは結城中佐のかっこよさの前にはどうでもいいことですわ。「天保銭」というものの存在を初めて知りました。当時軍人さんはこんな風に揶揄されていたのですねぇ。D機関どころか女中さんにすらスパイってばれちゃうって風機関ダメダメだな……。

②蠅の王

 本作は一風変わったスパイ視点からのお話。兄の死をきっかけにソ連のスパイとなることを決めた軍医・脇坂。前線の情報をソ連に流す彼の元に、「スパイ狩り」が行われているという情報が入る。一体誰がスパイ・ハンターなのだろうか。慰問のためにやってきた芸人の中にいるのか?疑心暗鬼に駆られる彼が知ったスパイ・ハンターの正体とは。
 今度は追われる側の立場で、私達にもだれがD機関の人間かわからないんですね。しかしD機関はねちねちせめますねぇ~www漫才のネタにすらスパイを煽るような言葉を入れて……。全部分かっていながら脇坂を泳がせていたD機関ですが、スパイのために人を殺すというオイタを見逃すことは出来ませんでした。たった5分で一人のスパイを完膚なきまでに打ちのめす名も無きD機関のスパイ。く~うたまらんです。しかし彼はこのためだけにわざと腕を撃たれたんだよな……プロ意識半端ないぜ……。

③仏印作戦

 善良な一般市民、高林正人は中央無線電信所に勤める通信員。彼はハノイにて、陸軍の情報を暗号文化し、郵便局からそれを送信するという仕事を行っていた。しかし、ある日彼は突然暴漢におそわれる。そのときに助けてくれた永瀬という男は自らをD機関の人間と名乗り、極秘の情報を送電することを高林に依頼するが……。
 D機関の人間が「オス!オレD機関!」とは言わないだろうなぁとは思っていましたが……。遠き外国の地で、羽目をはずした日本人の夢が醒める瞬間が痛々しい。

④柩

 ベルリンで起きた列車事故で日本人のスパイと思われる男が死んだ。ヘルマン・ヴォルフ大佐は彼がドイツで網を広げているスパイ・マスターであると考え、彼と関係しているスパイたちを一網打尽にすることをもくろむが……。
 ヘルマン・ヴォルフ大佐は実は結城さんと昔バトルした経験がおありでした。祖国に売られた結城中佐はとっさの判断で腕を一本犠牲にして生き延びる道を選びました。すげーー!結城中佐すげーー!!!そしてわざわざドイツに出向いてきてるんだ結城さん。ドライ&クールなイメージの強い結城さんですが、スパイ・マスターとして仕事を貫遂して無くなった真木さんを弔う姿にじーんときます。

⑤ブラックバード

 今でもそうですが、WW2以前も日本人のような有色人種は欧米で差別されることが多かったようです。D機関の仲根晋吾は二重経歴を使ってアメリカの有力者の娘に取り入り、子どもまで儲けることで活動しやすい環境を整えていました。しかし、仕事の相手が自分の実の兄であったことで「とらわれて」しまうのですね。
 情報提供者・ファルコンを追い詰めた仲根でしたが、「とらわれて」しまったことで大事な判断を誤り、そのスパイ生命を絶たれてしまいました。D機関も人間ですからね……失敗することもあるのでしょう。当時のアメリカ人の戦争観ってこんな感じだったんだなぁ。


 前作ほどの切れ味はないかな~という感じですが、時代を生かしたネタが新鮮で面白いです。次回作も早く読みたい~。