アラスカ物語 (新潮文庫)/新潮社

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 昨日から、異常なほどの低気圧が日本にあるようですね。
管理人の住む地域もいつもは雪なんてほとんど降らないのに昨日から雪が降っています。外に出たら「寒い」というよりも「痛い」という感じ。特に顔面が!!!

 そんなときにはアラスカのお話でも読んで相対的に暖かくなりましょう。
というわけで本日の本は新田次郎さん『アラスカ物語』です。

 長い夜に覆われたアラスカの氷原を歩くフランク安田の描写から始まります。
眼上に鮮やかなオーロラの描写のスケールが桁違いで、ぞっとするほどの孤独を感じさせます。彼はベアー号という船が氷で立ち往生してしまったため、ポイント・バローまで救援を願いにたった一人で船を放り出されてしまったのです。彼が黄色人種で、人よりも仕事ができてしまったばっかりに!

 そもそもフランク安田は明治元年、代々医者の家系に生まれたおぼっちゃまだったんです。しかし不幸なことに両親がなくなり、勉強することさえままならず、単身アメリカに稼ぎに出てこざるを得なかった不運な青年でした。このときに感じた理不尽な想いはほんとうにいかばかりだったのでしょうか。両親が死ななければきっと彼も医学を学んで、人々に信頼される立派な医者になって、愛する千代さんとも結婚できたでしょうに。

 寒さと空腹と疲労によって、何度も幻覚や幻聴を体験しながらも、フランクはなんとかポイント・バローにたどり着きます。もはやベアー号に戻ることもできないフランクは、そこでエスキモーたちと働く道を選びます。エスキモーとは「生肉を食べる人」という意味の言葉で、その名の通り、当時は狩りを主体として生活していました。

 エスキモーは日本人に顔が似ているようで、フランクはすぐに彼らに受け入れられるようになります。そこでめきめきと狩りの腕を上げたフランクはやがて彼らの中心的存在になっていきます。

 ところで、当時は白人による鯨の密猟が盛んに行われており、エスキモーは生活に危機に瀕していました。フランクは何とかして彼らを助けるために、砂金で一山当てた財産で壮大なエスキモー移住計画を考えます。ジャパニーズ・モーセ(モーセは聖書、出エジプト記でユダヤの民を開放した人)と呼ばれるようになったフランク安田の気高い心に畏敬を感じざるを得ません。どうぞ続きは本編で楽しんでくさいね!

 以下ネタバレ感想

 「こんなすごい日本人がいたのか!」と思いました。とにかくもういい人すぎて人生損しちゃってる感が半端ない。娘にもそう言われていますしね。屈強な精神と信念と勤勉さはとにかく尊敬。奥さんのネビロさんもとにかく勤勉。
 ものすごいことを成し遂げた人であることは間違いないんですが、彼はそれで幸せだったんでしょうか。なんかもう引き返せないし、この人たちを見捨てられないから、日本での生活はあきらめざるを得なかった感を感じるのは私だけでしょうか。やさしすぎるが故に、自分の幸せを放棄せざるを得なかったという……。なんだか読んでいて彼の人間性に感嘆すると同時に、なんだか哀れみを感じてしまいました。