ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)/早川書房

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みなさんこんにちは。
最近筋トレをしている管理人です。
無職ひきこもりが長引て筋肉量が明らかに低下しはじめたので、3日に1回ほど30分間筋トレしてます。痩せたかと言われるとそんなことはないんですが、ほんの少しだけ引き締まったような気がします。

さて、本日の本は稲見一良『ダック・コール』です。
ダック・コールはその名の通り、アヒルの鳴き声を発して鳥を呼び寄せる狩りの道具です。本作は、鳥に関する6つの短編が収録されています。
日常に嫌気がさして旅行に出た男は、旅先で石に鳥を描く一人の浮浪者の男に出会います。その石に描かれた鳥は稚拙ながらも息をのむような美しさでした。一つの短編が一つの石の描く情景を表しているそうです。

いずれの作品も、誰もが(特に男性かな?)が持っているような憧憬を含む原風景が描かれています。そこに登場する人物(人じゃないものもいるけど)は一様に誇り高く、気高く、好き嫌いや善悪という物差しでは測れない人生観を持っています。圧倒的な筆力で書かれた男達のハードボイルドな生き方に打ちのめされてしまう事間違いなしです。

以下ネタバレ感想

①望遠

年をまたいだ一大プロジェクトの映画の撮影。
ビルの間から朝日の出る一瞬をカメラに収めることを命じられた一人の男が撮ったのは、一羽の幻の鳥シベリヤ・オオハシシギでした。
この若者はこの鳥を撮る事にあまりあまり悩んでないんですよね。結構あっさり仕事放り出して撮ってる。私には出来ないだろうなぁ……。しかしその価値をわかってくれる人なんて自分以外にいないのである。

これは芸術そのものを表しているのかな?と思いました。自分が人生をかけてものにしたのに、他の人には価値をわかってもらえないことってきっと多いんじゃないでしょうか。

②パッセンジャー

パッセンジャーとはリョコウバトのこと。
19世紀に絶滅した大きく美しいアメリカの鳩だったようです。主人公のサムはその鳩の大量虐殺現場に居合せ、自分もリョコウバトを撃ち落として想い人のジェーンの元に持って帰ります。しかし持って帰ったリョコウバトは羽が抜け落ちてタダのキジバトになってしまいました。はたしてあのリョコウバトの群れは幻だったのか。ホラーテイストのある一遍。

③密猟志願

密猟になみなみならぬ情熱を燃やすも、空回りしてばかりの会社員の男。彼は狩りの天才であるヒロ少年に出会い、二人は一風変わった師弟関係になる。作者さんは『狩猟小説』を書きたいとおっしゃっていたようですが、こんな風にほのぼした狩猟もいいですね。
命をかけた密猟、老人ホームの粋なキャサリン嬢、クリスマスの夜、興奮に満ちた二人の生活はあっけなく終わってしまいました。主人公の心の中にも、こんな生活が続く訳がない、という恐怖がどこかにあったのではないでしょうか。

④ホイッパー・ウィル

元兵隊の日系アメリカ人・ケン。彼は人を撃つ猟師の仕事をたびたび保安官に任される事がありました。今回の依頼は脱走したインディアンのオーキィを捕まえる事。

囚人と保安官たちのだまし合い、狩猟をする事で見つめ直される自分自身の過去、そしてオーキィから感じるただの脱走した犯罪者だとは思えない気高さ、これぞハードボイルド。オーキィの揺るぎない信念に触れたアルとケンの計らいが粋ですね。

⑤波の枕

鶴の恩返しならぬ鳥の恩返し?
死の淵にのぞむ一人の老人が、過去のことを思い出しています。
自然の恐ろしさとそれが持つパワーを感じる一遍。大自然の中の生き物達はなんと逞しく、自分はなんと矮小に見えるのでしょう。

⑥デコイとブンタ

デコイは鳥達をおびき寄せるための偽物の鳥の事。ひどい密猟者に使われあっけなく捨てられたデコイはひとりの口の聞けない少年に拾われます。
そのとびきりの笑顔にすっかり魅了されたデコイは、少年を温かな目で見つめ、心の中で励まし続けます。なかなか表層にでない人の魅力ってありますよね。ブンタ少年は確かに人間から見るとグズでめんどくさいようにしか見えないもの。

二人は楽しみにしていた遊園地の観覧車に乗りますが、どんな不幸のいたずらか観覧車に閉じ込められてしまいます。そのときブンタ少年のとった行動とは。まるでデコイになったように、少年を応援している自分がいました。ファンタジー色が強い一風変わった一遍。

以上どの短編も味が濃く、読むほどに引き込まれて行きました。
ミステリー好きの方から方々お勧めされただけのことはある良い作品でした。