Fの肖像―フランケンシュタインの幻想たち 異形コレクション (光文社文庫)/光文社

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皆さんこんばんは。
いよいよ新学期の季節でございますね。管理人は今年、勉強をする年にしたいと思っています。とある資格にチャレンジしております。ええ、平たく言えばまだ糞みたいなニートってことですよ。今年から入学・入社の方、おめでとうございます。最初はなれないことが多くて疲れてしまうと思いますが、それを乗り越えれば充実した毎日が待っていると思いますよ!

さて、本日の本は井上雅彦編異形コレクションXLVI『Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち』です。

以前このブログでも取り上げましたメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン ーあるいは現代のプロメテウス』をモチーフにした異形コレクションです。STAP細胞のニュースが世間を駆け巡る中、いまいちど生命倫理を考えるいいきっかけになるか知らんと思い読んでみました。(嘘です、面白そうだから読みました)

名前を知らない作者さんも多いのですが、平山夢明さん、小林泰三さん、菊地秀行さんなど「これは読まねば!」という人たちの作品がいくつか入っていました。好きな題材であるというのもあると思いますが、全体的に面白かったです。外れがあまりないです。

以下一言ずつ感想

①吉川良太郎「青髯の城で」(好き!)
お城の地下で夜な夜な少年達を惨殺していた青髯公爵ジル・ド・レ。
一体彼は何のためにそんなことをしていたのか。秘密を探る一人の青年。
驚きの歴史ミステリーの謎解きと(ジャンヌダルクの復活!)と
青年の正体!(手帳の演出がオシャレ!)一作目からヒット!

② 真藤順丈「CLASSIC」
東洋のフランケンシュタイン。
蒸し暑さと腐敗臭さえ漂ってきそう。逃げ出した地雷撤去用ロボットゴドウィンと
それを追うこれまた被造物主人公。

③朝松健「屍舞図」
まさかの一休さん。これは科学の暴走、というよりは東洋の魔術で屍体を生き返らせた姉妹の話。ちょっとほかと違うテイストで楽しめた。

④黒崎薫「死なない兵士」
フランケンシュタインの造った怪物が軍事利用されたら?というお話。怪物が自分自身の破壊衝動を制御するために選んだのは母を亡くした幼い少年で……。

⑤石田一「切り裂き魔の家」(好き!)
これもオシャレで好きでした。住み込みメイドとして働くことになったマリア。しかし、その主人はおかしな人物で、自分の部屋に閉じこもりきり。たまに運び込む奇妙な荷物と、一瞬だけ見えた人間の肉塊、そして電話口で名乗った「ジャック」という名前……。まさかの切り裂きジャックかと思ったらフランケンシュタインのメイクしてたジャック・ピアースwww

⑥井上雅彦「そして船は行く」
北へ向かう豪華客船の中、ベールで顔を隠した婦人が見たのは映画『フランケンシュタインの花嫁』。吸血鬼ありアンドロイドありのカオスな客船が向かったのは、彼女がかつて拒絶した彼のいるところ。印象的なラストです。

⑦間瀬純子「野鳥の森」
これは風景が気持ちよーく思い浮かぶお話でした。死んだ良人を生き返らせるために子をなし、そしてまた生き返らせの繰り返しの日々。裁縫女などの独特の顔の見えない人物の描写がいい。阿片チンキ、フランケンシュタイン博士も飲んでましたね。好きなアイテムです。

⑧岩井志麻子「生まれ変われない街角で」
人は誰でも現代のリアルなフランケンシュタインなのかもしれない……。そんなことを思ってしまった良短編。「死体のまま」という宙ぶらりんの状態って考えてみれば不思議だなぁと思う。死んでしまったような生活を送るもう一人の自分を造って生きることは、まさに現代のフランケンシュタインなのかもしれない。

⑨天野邊「自画像」
私パソコン詳しくないんですよ……。ごめんなさい。Twitterもよくわかってないんですよ……。Botは自分が作り出した怪物であり自画像であるってことなのかな……?

⑩平山夢明「あるグレートマザーの告白」
あー、ひどいひどい。予想してたけどひどいひどい。でも好きなんだなぁ、このぶっ飛んで生命力に満ちあふれた思考が……。自分の望まずして生んだ子供を真性の怪物に教育しようとするグレートなマザー。その子供は立派な犯罪者になって死刑になったが脳だけ移植されて……。映画『フランケンシュタイン』に続くってことですかね。ほんものの怪物の生みの親はこの人だったってなんだか面白い。

⑪入江敦彦「金繍忌」(好き!)
京都を舞台にしたオカルトミステリーという所でしょうか。本作のフランケンシュタインは焼き物屋のご主人。陶器と漆でつぎはぎしたグロテスクな子供の造形には「満艦飾」という言葉がピッタリですね。怨念や邪念といった日本のじめっとした部分と、遠い西洋の地の怪物が絶妙に結びついていて気持ちがいいです。

⑫中里友香「セイヤク」
今日依存関係の姉弟。自分のために、そして姉のせいで自分を傷つけ続けて化け物のようになっていく哀れな弟。この関係をうらやましいと思ってしまう管理人はちょっと頭が逝っているのかもしれません。

⑬上田早夕里「完全なる脳髄」(一押し!)
これ大好き!こういう力強いお話大好き!
普通人(ナトゥラ)と合成人間(シム)がいる世界。しかし、シムはその力故に様々な制約がつけられている。主人公のシムはどうしてもナトゥラの見ている世界が見たくて……。ただそれだけのために闇医者にナトゥラになる手術を施してもらったシムだが、闇医者は彼女に「自分を殺せ」と命じる。ナトゥラならそれが出来るはず、と。彼女が望んだナトゥラは美しいものではなかったけれど、自分の頭で考えて、行動する力強さがありました。破滅的な未来へ向かうラスト、読後の脱力感がいいです。

⑭詠坂雄二「ドクターミンチに会いましょう」
子供達の肉体を集めて新生物を造ろうとしていたドクターを止める、電気人間。80年代のホラー映画にありそう。

⑮小林泰三「ショグゴス」(好き!)
ショグゴスはクトゥルフのショゴスからとっているようです。
自分たちよりも優秀な機械を奴隷のように扱うようになった人間。
彼らは地球上に海百合と名付けられた下等生物が、不定形生物と名付けられた高等生物を奴隷のように扱っているのを阻止しようとする。しかし、それは機械を奴隷として扱っている人間そのもので……。人間は機械に依存するあまり、いずれ機械に迎合する、確かにそうなのかもしれません。機械を使っているようでいて、機械に使われているのは、今でももう既にそうかもしれませんね。

⑯円城塔「Jail Over」
ごめんなさい、これよくわからなかった……。自分自身を見続けるもう一人の自分、ある日自分を殺して自分だけが生き残る、そんな話?

⑰瀬名秀明「光の栞」
言葉のはなせない博士が、自分の子供のために造ったのは「生きた本」だった。
本好きとして製本の過程等とても面白く読んだのですが、本が生きている必要ある?とちょっと思ってしまった……。

⑱菊地秀行「帰郷」
フランケンシュタインに造られた怪物は、自分の伴侶を造ることを創造主に願いましたが拒絶されました。もし絶望した怪物が自分自身の手で伴侶を造っていたら……?これは面白い視点でした。栄えてます。怪物一族。