他人事 (集英社文庫)/集英社
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本日二冊目は平山夢明さん『他人事』です。
 
長崎旅行に『聖女の救済』を持っていったのですが
待ち時間が長くて行くまでに読み終わってしまったので、
帰り道のお供にと思って空港で購入しました。
でもなんでこの胸糞悪い本をチョイスしてしまったのかwww
そしてなぜこの本が空港で売られているのかwww
 
しかし一つ一つが軽いタッチで(内容は軽くないけど(゜´Д`゜))
短いので乗り継ぎが多い旅のお供には最適でした。
但し行きしなに読むのはおすすめしません、
せっかくの旅行が胸糞悪いものになりますから。
 
調べてみるとどうやら携帯小説として発表されたものが
ひとつの書籍になったようですね。
確かにいつもの平山氏の作品に比べて
わかりやすいお話が多かった気がします。
 
解説が漫画家の冨樫さんでした。
冨樫さんも平山さん好きなんだなー。
 
以下一言ネタバレ
 
①‌他人事
 
事故現場をケータイでパシャパシャとって
Twitterにアップしているような人が横行する時代。
笑い事ではありませんよね。
生きるのを諦めた男と生きる意味を失った男のラストが
映像的に印象に残ります。
 
②倅解体
 
引きこもりで暴力を振るう息子を持て余し、
殺害を計画する夫婦。しかし、本当に狂っていたのは……。
殺人という非現実に現実の会話が重なるのが
リアリティを生んで居心地が悪いの何のって。
オチも不気味ですね。
女の子はお母さんが監禁していたのかな?
 
③たったひとくちで……
 
娘を誘拐された料理評論家とその奥さん。
犯人は昔同じように娘を誘拐され、
その肉を食われた元料理人。
その料理人が夫に食べさせたスープは実は夫婦の娘の肉!
一口でそのことを見抜いた評論家は犯人を羽交い絞めに。
事件は解決したかに見えたが
どうして夫は一口でその肉が娘のものとわかったのか?
わかりやすいオチですね。
 
④おふくろと歯車
 
少しファンタジーチック。
腐臭が漂ってきそうなゾンビラブロマンス。
急激に色を失うヒロ君の世界が
それまでの激動の夜と対比されて非常に淡白に感じます。
 
⑤仔猫と天然ガス
 
タイトルを読んで「どんな話??」と訝ったけれど、
これはひどい。この不条理さ、平山作品の真骨頂。
痛い、ひどい、意味不明、残酷
すべての罵声を浴びせかけたい人としておわってる一遍。
 
⑥定年忌
 
冨樫さんもおっしゃっているように筒井さんっぽいです。
定年を迎えて不必要になった男たちの末路は。
 
⑦恐怖症召喚
 
これは唯一救いがあるかもしれない。
平山さんはどうも虐げられた女の子に対しては
救いの手を差し伸べてくれる率が高いw
しかし自分の恐怖症を利用して頭パーンされるというのは
げに恐ろしい力だ……。
 
⑧伝書猫
 
これもホラー好きの心をくすぐるオチがついてますね。
猫が咥えてきた「タスケテ」の文字入りの小指
その指の持ち主は、そして主人公の女性の部屋を監視する
不気味な視線の正体は。
奇妙な設定と、謎が読者を引き込みます。
 
⑨しょっぱいBBQ
 
小市民のささやかな幸せさえ許さない平山さん。
今度はBBQに来たどうしようもない夫婦を
不条理な恐怖が襲います。
 
⑩れざれはおそろしい
 
自殺予告の手紙が教師の家に届いた。
差出人は誰なのか?そして「れざれ」の正体とは。
子供の集団の恐ろしさを舐めてかかってはダメですね。
子供は狡猾に大人を操ります。
 
⑪クレイジーハニー
 
SFテイストの異色な作品。
ブレンステッド酸とかアンモニアとかwww
ロボットにおしっこをかけるなwww
ラストはどういうことなのかな、
敵が裸の主人公を見て本来の役割を思いだし、
消毒するのをやめたってことなのかな?
 
⑫ダーウィンとべとなむの西瓜
 
様々な人種の人間が生きる街で、
やっかいな仕事を引き受ける羽目になった主人公。
それは処刑道具を乗せた車で各地を周り、
行く先の人間を処刑して回るお仕事だった。
彼が殺すことになったのは貧しさゆえに万引きをした
一人の少年で……。
自分が生きるには誰かを殺し、奪い生きるしかないということを
身をもって知ってしまった主人公の一言が哀しい。
 
⑬人間失格
 
生きる希望を失った男女が寄り添い生きていく感動譚
かと思いきや、平山さんがそんな話書いてくれるわけがないwww
まさか、まさかと思いつつ読んで
やっぱり裏切られた。胸糞の悪いラスト。
 
⑭虎の肉球は消音器
 
平山さんは何かを諦めた人を描いているとは
解説の冨樫さんの談だけれども、これはまさにそう。
ドデかい一発なんぞ全くなく、
残りの人生は金を稼いでそれを食いつぶし生きていくだけ。
希望も何もあったもんじゃない。
友達のブチの死すらももうどうでもいい、
灰色の人生。
 
いやー、すっきりさわやかとは真逆の読書体験でした。
人としてクズ、あるいは終わってる人間にある日突然奪われる
平穏な人生。
こんな作品を小説として楽しんでいる自分は
やはり幸せなのだなと実感します。
こういう本がもっと売れるように、幸せな世の中になるといいです。