死者のための音楽 (MF文庫ダ・ヴィンチ)/メディアファクトリー
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皆さんこんばんは~(*´∀`*)
 
今日は管理人の住む地域では夕方から雨が降りまして、
傘を持っていなくて駅でオロオロしてしまった人も
いらっしゃったのではないでしょうか。
こんな突然の雨に出くわすと、
高校時代のことを思い出します。
 
同じように突然の雨に降られて駅でオロオロしていると、
親切なご夫婦が
「もうボロボロでいらないから、使ったら捨てて」
とビニール傘を持たせてくれたんですね。
遅刻寸前&社会常識皆無だった管理人は愚かなことに
名前も住所も聞いていなかったのでお礼はできずじまいです。
雨が降るとその時のことを思い出して、
あの恩をまた別の誰かに返さないといけないなと思います。
 
さて、本日本日ご紹介するのは
山白朝子さん『死者のための音楽』です。
私は全く知らなかったのですが、
山白朝子さん=乙一さんだそうです。
確かにこのホラーとミステリーとノスタルジィの
絶妙な比率は乙一さんかなーと思ってみたり。
残酷で、暴力に溢れていて、
でもどこかじんわりとさせられる
よい短編集だと思います。
 
以下一言ネタバレ感想
 
①長い旅の始まり
 
寺に逃げ込んできた妙齢の娘。
旅の道中の娘は何者かに襲われ、
父親を無残に殺され、自身も下腹部を刺された。
元気を取り戻した娘は男の子を出産する、
しかし相手はわからないしそんな覚えもないという。
生まれた息子は何故か殺された父親の記憶を持っていた…。
 
処女受胎というわけではもちろんなく、
父親の精子が付着したナイフで
下腹部を刺したからという理由が明かされました。
全てをファンタジーで終わらせないで、
唐突にぐいと現実に戻されるのは心地悪くて心地いい。
 
娘は復讐を果たし、息子だけが残されますが
その息子がまた母の生まれ変わりをつれて…というループエンド。
 
②井戸を下りる
 
これは「ふと迷い込んだ異世界パターン」と勝手に呼んでるんですが、
それが幼い頃の心の傷をチクチクとさしてくるあたりがニクい演出です。
成金の息子は不意に落ちた井戸で、
幼い頃に死に別れた幼馴染の女と再会します。
結納を控えた男はその当日父に逆らって
女と過ごす決意を固めますが…。
 
暗闇で生活し、おそらく目が退化した彼の一族に
彼が話して聞かせる昔話というシチュエーションも謎めいていていいですね。
 
③黄金工場
 
これはなんだかダークSFっぽくて好みです。
工場廃液によって生命がたちまちのうちに金へと変わる場所。
主人公とその母親はせっせと虫を金に変えます。
 
しかし、工場の経営が傾き、閉鎖されることになりました。
そこで母親は未だかつてない生命を金に変えようとしますが…。
父親とその浮気相手を金にしちゃったママ、
しかし偽りの金はときがたつと元に戻っちゃうんですね。
浮気相手が金になって顔面を潰されたのち
元に戻ったらどんな姿なのか…想像させる怖さがあります。
 
金に値するのは生命だけだという言葉は
なるほどと思う反面、命って金位の価値しかないのねと
ぞっとしてしまいました…。
 
④未完の像
 
彫師見習いの主人公は、ある日仏像を掘りたいという奇妙な女に会う。
女は自らを鬼と名乗り、その腕前は彼を凌ぐほどで
仏像以外の彫り物に関しては名人級であった。
彼女が彫った彫刻はそのとおり、命を与えられたのだ。
 
さて、ではこの世にないものを彼女が彫った場合どうなるのか?
というのがこのお話の面白い部分であります。
結局彼女は如来様を掘り出すことはできませんでした。
彫師としての葛藤と、仏像の存在価値に揺れる
主人公の逡巡が悲しいっす。
 
⑤鬼物語
 
不条理と鬼ってなんでこんなにマッチするんでしょう。
筒井康隆さんの短編にも、
会社に鬼が入ってきて、ただ殺すっていう短編がありましたね。
この鬼も村の人間を次々と殺すだけ殺していきます。
 
そこに関わる三代の人間たちの話、
流れる川と血のように赤い桜の情景が印象的。
 
⑥鳥とファフロッキーズ現象について
 
泣ける( ;∀;)もう動物モノにとにかく弱い管理人。
ファフロッキーズ現象というのは、「え?なんでこんなものが?」
というものが空から落ちてくる現象。
一時騒がれてましたよね、大量のイワシが降ってくるとか。
この作品の主人公が遭遇するファフロッキーズ現象は怪奇現象ではなく、
彼女とその父親に恩を抱いた鳥が引き起こしたものでした。
 
傷ついた鳥を助けた主人公とその父親、
助けた鳥は父子の望むものを運ぶという習性がありました。
父親はある日、強盗に襲われて亡くなります。
抜け殻になった主人公と鳥の奇妙な生活、
そして税理士との出会いが主人公の女の子の心を開きます。
 
が、実はそいつがパパを殺した犯人でした。
飛べない羽を抱えて必死に女の子を守る鳥(゜´Д`゜)がんばれー。
乙一版、ミステリー風味の鶴の恩返しってところでしょうか。
ほっこりホラーっていいね。
 
⑦死者のための音楽
 
耳の悪い母親と、その娘の会話による短編。
母親は小さい頃の臨死体験で死者のための音楽を耳にします。
それはまるで天国から漏れ出してきたかのようで、
モーツァルトのレクイエムのようだけど全然別物。
それは死に近づいたものだけが聞ける最上の音楽でした。
 
父と死に別れ、娘を必死に育ててきた母は、
その音楽の元へ行こうと自ら命を絶とうとしたのでした。
 
死という絶対的な恐怖に
救いを見出してくれる乙一さんありがとうございます。
音楽は極めて行くとこの死者のための音楽に行き着くのでは?
という仮説は小林泰三さんの「絶対芸術」みたいで面白いなと思いました。
 
以上どれも総じて質が良く、
語りかけるような文章も平易で読みやすかったです。
エグすぎず怖すぎず、むしろ柔らかな印象すら受ける、
乙一さんのようでいて乙一さんじゃない
なるほど、これは山白朝子さんの作品なんだなと思いました。