- 生ける屍の死 (創元推理文庫)/東京創元社
- ¥1,260
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さて、本日ご紹介する本は山口雅也さん『生ける屍の死』です。
夜もだいぶ老けてきましたので手短に…。
山口さんは何かのアンソロジーで短編を読んだ記憶が。
本作がデビュー作だそうです。
以下ネタバレ感想。
日本人の作家さんですが、舞台はアメリカ。
これにもきちんとした理由がありまして、
この物語の根幹にはアメリカ的葬式観、
つまりキリスト教思想と土葬が必須だったんですね。
物語の舞台は代々葬儀屋を営んでいるバーリイコーン一家。
老い先短いスマイリーじいさんと、その妻で敬虔なカトリック信者のモニカ
経営権を手に入れて財産を肥やすことを生きがいとするその息子ジョン、
そして両親を亡くしこちらに帰ってきている探偵グリン。
他にも、この一家にはたくさんの人が出てきて、
最初はポカーン(゚д゚)ですが、文章が上手なので
徐々に慣れてくると思います。
さて、本書の特徴として特筆すべきは
ずばり「死者が蘇る」というある意味ファンタジー的とも言える設定。
この設定のおかげでミステリーの肝である殺人事件も、
一般的な事件とは一線を画した不思議なものになります。
そして随所に散りばめられる「死」へのペダンチックな描写。
ふーん(´ー`)くらいで読み流してしまうのはもったいない!
重要な動機がそこに見え隠れしています。
まとめると、
モニカ→老衰死
ジョン→モニカによって殺される
スマイリー→余命短いから自殺
探偵グリン→色盲のお手伝いさんのせいで謝って死んじゃったテヘペロ
ジェイムズ→モニカによって殺される
という至極単純なものなんですが、
どうせ生きているのに殺人を犯す動機(最後の審判に全てを委ねようとする)や、
生きているふりをする理由(ジョン:妻子に金を残したい)
など「死者が蘇る今だからこそ!」という理由があり、面白いです。
グリンがチェシャと分かれてしまうところは切ない(゜´Д`゜)
グリンは細菌の持っていた「永遠の命」と引換に
人間は「個体と性」を手に入れたという結論に達して
二度目の死を迎えますが、これ泣ける。
作者さんの膨大な死への知識に裏打ちされた
「生」の結論が温かいものであって救われます。
ちょっと今回ミステリー的な良さはあんまり伝えられてないですが、
トンデモ設定の上に成り立つ本格(ノ∀`)ノ クレクレという人にはオススメ。