大誘拐 (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)/双葉社
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最近仕事が忙しいのと、体調が悪いので
なかなか本を読めずにいます。
それでもなんとか2日に一冊は読もうと思って
昼休みにコソコソ読んでおります。
 
ちょっと調子も悪いので今日の感想は短めに。
ご紹介するのは天藤真さん『大誘拐』です。
読み方は「てんどうしん」さんらしいです。
本作はその名のとおり、大胆不敵な
まさに「大誘拐」のお話。
 
以下ネタバレ感想です。
 
前科者の3人が獄中で結託し、
仮出所中に誘拐事件を起こすことを計画。
ターゲットにされたのは子供ではなく
なんとひとりの小さなおばあちゃん。
 
でもこのおばあちゃん、ただのおばあちゃんじゃなかったんです。
大阪府の何倍もの土地を持つ、日本1、2を争う
大富豪中の大富豪だったのです。
数十日に及ぶ辛い張り込みの末に、
3人はようやくおばあちゃん、とし子刀自を誘拐。
 
しかしこのとし子刀自、頭の方も
ただのおばあちゃんじゃありませんでした。
「自分を誘拐するのに1000万円なんて許さない、
身代金は100億用意してもらう」と言って聞きません。
誘拐犯の3人も根っからの悪党ではなかったので
この額にはびっくり仰天。
3人は次第にとし子に付き従うようになっていきます。
 
囮の車を用意させ、しかし実際は囮の車で
身代金の要求を生中継させる作戦、
ヘリコプターに身代金を載せて逃げたと思わせておいて
とし子の息のかかったパイロットに偽証させ、
まんまと逃げおおせる作戦。
いずれもとし子以外には考えも及ばず、
また彼女以外には実行できない大胆な作戦ばかりです。
 
手に汗握る展開…というわけではありませんが、
読者の感情は犯人への応援、とし子への疑い、
とし子の親族への応援、そして警察への恐怖、
世論との同調、政治への反発
様々な思惑のあいだをまるで荒波に揉まれるように
引きずり回されることになります。
 
犯人は捕まっちゃうの?お金はどうなるの?
心配しつつも、「とし子さんなら大丈夫」とどこかで安心しながら
物語は終焉を迎えます。
全編を通して、とし子は慈悲深く、気品があり、
物事の酸いも甘いも噛み分けた、思慮深い人物として書かれます。
しかし、実際に現世を哀れみ、
空虚な生活に誰よりも悲観していたのはとし子でした。
自分に好意を向ける人たちの真意がわかりかねる、
代々守ってきた野山は何もしてくれなかった国に取り上げられる…。
それを3人の誘拐犯が現れたのを幸いとばかりに
今回の作戦立案に踏み切ったのでした。
 
いやー、桁の違う作戦にただただびっくりするばかり。
100億なんていうお金は想像ができません。
まさにスケールが違う。
 
ラストは(刑事さんがちょっと(´・ω・)カワイソスでしたが)
誰もが幸せになれる素敵な締め方です。
テレビが生活に甚大な影響を及ぼしていた時代の、
古き良き作品でございました。