匣の中の失楽 (講談社ノベルス)/講談社
¥1,260
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こんばんは皆様。
最近異様な睡魔に襲われる管理人です。
通勤電車の読書が日課だったのですが、
ここ何日かあまりに眠たいので電車で寝てしまい、
めっきり読書スピードが落ちております。
これはあれかな、日光に当たってないから
体内時計が狂って云々というやつかな。
 
本日ご紹介するのは竹本健治さん『箱の中の失楽』、
竹本さんを拝読するのはこれで二回目です。
これは若干23歳にしてものしたという作品でありまして、
その知識の幅広さたるや既に大物の風格に満ちています。
本書は、
中井英夫『虚無への供物』
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』
夢野久作『ドグラ・マグラ』の三大奇書と合わせて、
四大奇書と呼ばれるだけあって
ものすごい捻れと幻惑感が味わえます。
 
麻耶雄嵩さんとか好きな人はこの
ペダントリーの応酬と本格の醍醐味である推理合戦が
気に入るのではないかなと思います。
逆に、うじうじ考えるの嫌い!結論はよ出せ!
謎が少しでも残ると気持ち悪いから嫌!
という人はお勧めできません…。
本書は、「本格という決められた匣の中で
やりたい放題やってみました」を形にしたものです。
 
以下ネタバレ感想!
 
これネタバレするにしても…。
実際に読んで雰囲気を味わわないことには
良さは伝わらないので、是非読んでいただきたいのですが。
本書では、奇数章と偶数章がパラレルになっており、
そして全編が小説中小説という捻れまくった構造を持っています。
 
つまり、第一章で曳間という人物が死にますが、
第二章では彼はピンピンとしており、
その死は小説の中の出来事になっています。
しかし第三章では依然として曳間は死んでおり、
第一、第二章が小説中小説として書かれている
という奇妙な展開になります。
 
以下、死んだ人をまとめるとこんな感じ。
 
■第一章
 
曳間…外から鍵がかかった室内で死亡。
発見者の倉野によると、見慣れぬグレーのブーツ。
 
□第二章
 
真沼…血痕のみを残して密室から忽然と姿を消す。
雛子の両親が事故死
 
■第三章
 
ホランド…停電中の暗闇に突然絞殺死体となって出現。
 
□第四章
 
倉野…甲斐のアトリエで死亡。部屋は密室、鍵は部屋の中。
甲斐…事故死
影山…突然の失踪
 
■第五章
 
倉野…刺殺死体になって発見。鍵は彼が飲み込んでいた。
甲斐…事故死(?)
 
というような感じです。
お話は五章+αで終わるので、一応現実は奇数章になるのかな。
この辺はほかの素晴らしい解説サイト様へGO!ですぞ。
 
何より本書の読みどころはその衒学的推理遊戯にあります。
23歳ってこんなけ知識持ってるんか!というほどに、
呪術、科学、数学、心理学、論理学…あらゆる分野の登場人物が
トンデモ推理を披露します。それがまた面白い。
私は有機化学を少しかじっているので、アルカロイドのところなんか
非常に楽しく拝読いたしました。
 
常日頃誰もがふと考えてみるけれど、
わざわざ口には出さないような
「今見えている世界はほかの人も同じように見えているのか?」
「世の中のすべての現象は、あらかじめ決められているのではないか?」
というような解決しようのない謎にまで議論が及びます。
 
もちろん推理小説としての謎解きも一級品です。
丁寧な場合分け、可能性の消去、さらなる可能性の模索…
結局正解の出ていない謎も残るっちゃ残るんですが、
そんなの気にならないくらいの圧倒的な雰囲気と力が
この作品にはあると思います。
 
うーん、この面白さは読まないと伝えられないです。
謎の波状攻撃に酔いしれたい方は是非!