ゴーグル男の怪/新潮社
¥1,785
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今日からまた一週間が始まりましたね。
私は昨日食べたグリーンカレーが
お腹の中で暴れまわったせいで、
最悪の目覚めとトイレから一日が始まりました。
食べているときは至福のひととき、
一日経つとこの世の地獄。
グリーンカレーおそるべしです。
牛乳とか飲むといいのかな?
 
そんな今日ご紹介するのは島田荘司さん『ゴーグル男の怪』です。
やっぱり月イチくらいで御大の作品を読まないと
島田分(糖分みたいなもの、必須栄養素)が切れてきます。
これは『探偵Xからの挑戦状』という番組を
加筆修正したノベライズ版のようですね。
残念ながら当時テレビのない部屋に住んでいたので
ドラマの方は見ていませんが、感想など読んでいると
とても面白そうでしたよ。田中圭さん出てました(*´ω`*)


 
今回ももちろん楽しく読ませていただいたのですが、
一番困ったのが表紙wwwどこの劇画ですかとwww
小学校の図書館にあった乱歩の少年探偵団シリーズを思い出します。
昭和の香りwwww恥ずかしくて電車で読めないwww
個人的にはこういうおどろおどろしい表紙大好きなんですけど
でも人前で読むにはちょっと抵抗が…。
栞で必死に隠しながら読みました。
 
以下ネタバレ含みますのでご注意を。
 
事の起こりは、鉢呂屋という煙草屋の老店主
鉢呂ふみ子が殴られた拍子に心臓発作を起こして死に、
現金が盗まれていたという事件から始まります。
幸いにも現場から逃げおおせた男の目撃情報が有り、
見たものは皆口を揃えて
「犯人はゴーグルをつけ、目の周りがただれたように赤かった」
といいます。
そして、現場には蛍光ペンで端をマークした
五千円札が見つかります。
 
調べていくと、その五千円札は
ほかの煙草屋でも使用されていた様子。
以下、疑問点。
 
①犯人はなぜゴーグルをしていたのか?
②その目が赤く見えたのは何故か?
③犯人は誰か?
④蛍光ペンの引かれた五千円札は何か?
 
テレビの懸賞つき番組でやっていたと言うだけあって、
推理の根拠の提示も、多分に映像によるところが大きく、
いちいち利き手やタバコの銘柄何かを書かなきゃいけないのは
小説になると少し説明腐くなっちゃう感は否めませんでした。
しかし、解くこと前提に話を書いてくれているので、
私にはこれくらいの複雑さがちょうど良かったかも。
 
疑問点の解答は以下のとおり、
 
今回は犯人≠ゴーグル男でございました。
犯人は少年院上がりの歌手志望の女、光子。
彼女は『つぼ算』詐欺を働くために
お札にわかりやすいように蛍光ペンでマークしたのでした。
しかし、鉢呂屋の店主にそれがバレそうになり、
勢いで殺害。これ幸いとばかりに金品を奪って逃げました。
 
店から出てきたゴーグル男は、実は彼女のストーカー、津田一郎。
郵便受けから彼女の部屋を覗いていたところ、
赤いスプレーで撃退され、それを目に浴びたとのこと。
それを隠すためにゴーグルをしてたんですね。
 
第二の事件では光子自らがゴーグル男に化け、
自分を揺すっていた棗田を殺したのでした。
 
さて、本書ではこの一連の殺人事件とは別に、
正体不明の第三のゴーグル男が登場します。
彼は幼い頃の性的虐待の記憶により、
捻じ曲がった性的感覚を持ち、
ゴーグルをすることによって背徳感とエクスタシーを得る
という一風変わった人物。
 
読み進めるうちに、原子炉の臨界事故で
中性子線をモロに目に浴び、
仕事場の社員二人に目の前で死なれた記憶を持ちます。
もしかしたらゴーグル男はこの人物で、
目の周りがただれてるのは中性子線を浴びたからなんじゃないの?
というご誘導もあるにはありますが、
これはあまり本気度が高くないお遊びだと思います。
それよりも島田さんは臨界事故のことや原発のことを
メインに書きたかったのではないかなと思わせます。
 
最終的に対峙することになった
光子扮するゴーグル男と第三のゴーグル男。
彼が発する言葉は思いのほか暖かく響きました。
「君は、ぼくか?」「ありがとう」
彼も幼少時のトラウマから棗田に殺意を抱いていたんですね。
それを光子が殺してくれたと、そう思ったのかな。
 
光子もゴーグル男も幼少の頃の家庭環境のせいで
人生を狂わされた人たちでした。
その二人がこんな奇妙なかたちで出会い
誰にもわかってもらえなかった感情をたった一瞬で理解し合う…。
ただの謎解きで終わらせないドラマチックな展開です。切ない。
 
結局ゴーグル男はどこの誰なのか?
そもそも本当にいたのか?という謎を残したまま
本書は終わってしまいます。
余韻の残るラストです。
 
以下関係のない余談
 
今回のお話が1999年に起きた、東海村の臨界事故を
ベースにして書かれているのは明々白々なことだと思います。
事件当時の会社の状況も、被害者の数や程度
その後の経過も、ほとんど自己の記録と同じでした。
私は大学で放射線の授業もとっていたので、
この事故のことは知っていましたし、
原因がどういったもので、どこにミスがあったのか、
高速増殖炉の必要性、プルトニウムのプルサーマルの必要性
全て教授に教えてもらったつもりでいました。
 
でも今回の作品を読んでJCOの事故について
被害者の方の闘病記など読んでいますと、
こんなにも壮絶だったのかと身震いする思いでした。
確かに何も知らずに作業を任せた社員も、
それを鵜呑みにしていた作業員も
全く責任がないとは言えませんが、
改めて。本当に原子力っているのかな…と考えさせられました。
 
興味を持たれた方は被害に遭われた
大内久さんの記録を読んでみてください。