- 鳩笛草―燔祭・朽ちてゆくまで (光文社文庫)/光文社
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皆さんこんばんは。
2013年にもそろそろ慣れてくる頃でしょうか。
私は仕事柄2013と書く機会が多いですが、
未だに2012と書いてしまいそうになりますし、
平成に至ってはもう何年も前から何年なのかわかりません\(^ω^)/
(仕事では西暦はよく使いますが、平成表記は
紛らわしいのでほとんど使わないんですね)
さて、本日は朝からちょっとしたハプニングがありました。
今日も今日とて本を読みつつ電車に乗り、
意気揚々と仕事場へ向かっておったのですが、
本にのめり込みすぎるあまり、
3駅も乗り過ごしてしまいました(゚д゚lll)
駅員さんに事情を説明して
向かい側のホームに行かせてもらうの恥ずかしかった…。
それくらい面白かったってことですね。
ご紹介するのは宮部みゆきさん『鳩笛草』です。
これはいわゆる特殊能力を持った女性たちの
日常と葛藤を描いた短編集です。
いずれも宮部さんお得意の平易調達な文章が冴え渡り、
読者をがっちりと引き込んで話しません。
感情と情景をここまでバランスよく、
上手に表現できる作家さんは稀有な存在だと思います。
では、以下一言ネタバレ感想
①朽ちてゆくまで
能力:未来予知
両親を幼い時に事故で亡くし、
祖母のさだ子と二人で暮らしてきた智子。
その事故をきっかけに彼女自身も大怪我を負い、
それ以前の記憶をなくしてしまっていた。
さだ子が発作が原因で亡くなり、
残された家と思い出の品々を整理するところから、
この物語は始まる。
智子が古いダンボールから探し出してきたのは
ホームビデオで撮影したらしきビデオテープの山。
見てみると、写っているのは幼き日の智子と両親。
しかも、その智子はなんと、未来予知の能力を携えていた。
記憶を亡くす前の智子は大地震を、日航機墜落事件を、
叔母の結婚式を、おぼろげながらも
しかし確実に言い当てていた。
どうやら事故とともにその能力は失われたらしい。
その事故のことを調べていくうちに、
もしかしたら両親は、自分の能力を持て余し、
一家心中をしたのではないかという疑念を抱くようになる智子。
そして残された家で焼身自殺を図るが…。
結局、能力があろうとなかろうと、
人を救うのは人なのだなと思わせる暖かいラスト。
幸せな未来を見る能力を再び会得した智子に
不確定だけれども希望を持てるラストを用意してくれた
宮部姉さん。ほんっとありがとうヽ(;▽;)ノ
②燔祭
能力:念力放火能力(パイロキネシス)
燔祭とは、古代ユダヤ教の儀式で、
動物などの生贄を炎で焼き、神に捧げた儀式のことだそうです。
この短編に登場する青木淳子さんは
長編の『クロスファイア』にも出演なさっているご様子。
この話は、2年前に妹を殺された多田一樹が
4人の焼死体が盗難車の中から発見された
という新聞記事を見つけるところから始まります。
そこから大過去(妹との思い出)、中過去(青木淳子との思い出)
現在がめまぐるしく変わり物語が展開していきます。
年の離れた妹雪江を、大切にしていた一樹。
彼は理不尽な暴力を振るった犯人の少年に
私刑を下すことを心に誓うようになります。
そこに現れた会社の同僚、淳子。
彼女は、「自分は装填された拳銃だ。私を使え」
と彼に自分の発火能力を打ち明けます。
妹のことで腸が煮えくり返っていた一樹は
戸惑いながらもその申し出を受けようとします。
しかし、実際に人が燃えているのを見て、
生き物の焼けた匂いを嗅いだとき、その決意は揺らぎ
ターゲットは一命を取り留めます。
誰かにトリガーを引いてもらうことでしか、
自分を確立できない淳子は諦めきれず、
一樹の前から姿を消します。「新聞を見ていて」とだけ言い残して。
結局彼女は彼の復讐を完遂しました。
能力を与えられた以上、彼女はそれを使わないではいられませんでした。
能力者の存在意義を問う良作です。
③鳩笛草
能力:透視能力
警察官の貴子は透視能力の所有者、
人や物に触れることで感情や記憶、残留思念を読むことができる。
彼女はこれまでにその能力を最大限に生かし、
短期間で私服刑事に上り詰め、
男社会の同僚の中で自分の地位を確保するに至った。
彼女の現在の心配はこの能力が徐々に衰えていること。
この能力を失ったとき、自分は刑事としてやっていけるのか
存在している価値があるのかと自問し続けます。
鳩笛草は宮部さんが創作した実在しない植物ですが
そのモデルとなった(と思われる)リンドウは
その苦味から疫病草と呼ばれたり、
花言葉が「悲しんでいるあなたが好き」だったりと
何かと物悲しさがつきまとう花です。
能力が消える前に、最後の事件へと対峙する貴子。
亡くした妻の面影が貴子にちらつき、
彼女を放っておけない不器用な大木。
頼もしくもあり、鬱陶しくもある同僚の面々。
それぞれの思いがとても丁寧に書かれています。
結局貴子は能力を失ったようなラストですが、
同僚たちにとって貴子は力を失っても貴子でした。
きっと貴子は東京に戻って、
素敵な刑事さんになってくれると思います。
以上の三編はどれも特殊能力を持つ女性の話でしたが、
当たり前の事ですが能力=人間ってわけじゃないんですよね。
能力によって人格の形成がある程度影響はされるでしょうが
能力は道具と一緒で、使う人によってその姿が全く変わってしまうのだと思いました。
いやー、しかし宮部さんの文章力と展開力はやはりすごい。
プロットだけ抜き出してみると、
きっとほかの作家さんにも考えつくようなものばかりですが、
彼女はそこに圧倒的な技工をもって、
一級品へと仕立て上げていきます。
いやー小説っていいもんですね(*´ω`*)