- 人形(ギニョル)/新潮社
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皆様、あけましておめでとうございます。
紅白歌合戦はご覧になりましたか?
お笑い芸人さん達の特番は面白いですか?
そんな元日も私は変態読書です。
本日ご紹介するのは佐藤ラギさん『人形-ギニョル-』です。
ギニョルとはフランス語で人形、指人形という意味だそうで、
フランスにある『グラン=ギニョル座』は
残酷劇で人気を博したことは有名です。
日本でも東京グラン=ギニョルという劇団が一時期ありましたね。
『ライチ光クラブ』など耽美な残酷劇が有名だったそうです。
(余談ですが、『ライチ光クラブ』は今年再演されるそうです)
ではでは、ネタバレ感想行ってみよ!
一言で言えば、嗜虐性とは何か?を追求する小説。
堅実なサラリーマン生活を捨て、
SM小説家というヤクザな商売で日々を過ごす主人公。
SM小説家というと「どんな変態だよ!」と思われるかもしれないが、
この主人公は公私をすっぱりと分けた平凡な人物。
日々の楽しみはナイターとビール、
下の楽しみはむしろインポテンツ気味という
拍子抜けするほどの常識人。
人を虐め抜くのは紙の上だけ、
そう思っていた主人公はある日、『ギニョル』と呼ばれる
不思議な魅力を持った少年の男娼に出会います。
ビスクドールのような美しい顔立ちをした少年ですが、
何人なのか?何歳なのか?家族はいるのか?
なぜこんなことをしているのか?
何を聞いても決して口をわりません。
主人公は、この小生意気な少年と話すうち、
自らの嗜虐嗜好を解放するようになってしまいます。
少年の一挙手一投足が彼に残酷な欲望を起こさせるのです。
作家は、知り合いのアングラ芸術写真家のバンちゃんと組んで、
彼を監禁してしまいます。
そして、この人形のような少年を使い、
本物そっくりの人形を合成することで
『残酷劇場 グラン・ギニョル座』
というスナッフムービーを撮影します。
結局ギニョルはもともとの「飼い主(父親?)」に
奪い返されてしまうのですが、
諦めきれないバンちゃんは海を越えて彼と再会し、
「本物」のスナッフムービーを撮影するようになります。
全編ハラハラドキドキというわけではないのですが、
人を傷つけることによって湧き上がる様々な感情と
決して超えてはならない一線の扱い方が旨いと思います。
私はあくまでノーマルな人間ですが、
「変態とはそこにとどまっていてはいけない、
常に進化し続けなくてはならない」
という言葉なんかは、なるほどなぁと思いました。
「邪悪ナル世界」の住人のギニョルにとって、
作家はあくまでもこちら側の世界の人間。
向こう側の世界を覗き見ることしか彼にはできませんでした。
白く美しいギニョルは、全てが反転する向こう側の世界では
邪悪そのものだったんですね。
「邪悪ナル世界」に入り込めたバンちゃんと、
「正シキ世界」に取り残された作家。
このふたりの間には明確な線引きはあったんでしょうか?
私はその線は、地平線のようなものなんじゃないかなと思います。
遠くから、つまり私のような極めてノーマルな人間には、
その線はくっきりと見えるのだけれど、
その境目に近づいてしまったら、本当は線なんてないんだよという…。
耽美でグロテスクでエロティックで、
それでいてやけに現実的な世界観でした。
向こう側に落ちきれない人間の苦悩と、
向こう側への激しい憧憬を感じる作品。