七つの棺―密室殺人が多すぎる (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)/東京創元社
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クリスマスがいよいよ近づいてまいりましたね、
ぼっちの自分には全く関係がないのですが。
私と同じようなぼっちなミステリ小説好きな方に
「こんな哀れな人間がいるのか!」とほくそ笑んでいただければ
誰得ブログを更新し続ける意味もあるってもんです。
 
さて、本日は折原一さんの『七つの棺』です。
これは密室殺人ものばかりを扱った短編集で、
題名は、カーの『三つの棺』をもじったものだそうです。
全然知りませんでした…カーをまとめて読む必要がありそうです(´Д⊂
全ての短編は、白岡町という田舎町が舞台で、
そこで働くエリート街道を外れてしまった黒星警部が主人公です。
黒星さんは、密室好きが災いして、すぐに溶けてしまうような事件を
迷宮入りさせてしまったがために出世街道を外れてしまったかわいそうな人。
今回の短編集でも何一つ事件を解いていませんww
 
では、ネタバレ感想いってみよ!
 
①密室の王者(ロナルド・A・ノックス「密室の行者」のパロディ)
 
ノックスさん「密室の行者」は綾辻さんのアンソロジー『贈る物語 Mystery』で
思いがけず予習していたので、パロディを十二分に楽しめました。
「密室の行者」では被害者は密室で餓死していましたが、
今回は、完全に目張りされた体育館で素人力士が死んでいます。
密室の中には、酔いつぶれて寝ていた青年たちが4人いましたが、
いずれも屈強な時任には勝てるはずがありませんでした。
 
力士は地面に叩きつけられたように見えましたが、
上から釣り上げることなんかはできそうにありません。
黒星警部は、4人の青年たちが胴上げをして、
そのまま放り出して力士を殺したと推理。
外れちゃいなかったんですが、それは余命幾ばくもない力士が
自ら望んだことだったというオチ。
 
巻末、浜田知明さんの分類にあてはめると
A・3になるかな?密室内の自殺・事故・狂言
 
②ディクスン・カーを読んだ男たち
(ウィリアム・ブルテン「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」のパロディ)
 
これは元ネタを知らなかったので、パロディが何処に生かされているのか
わからなかったのですが、この作品が一番好きだ!
魅力的な謎、意外性、そしてモブだと思われていた人物によるどんでん返し。
密室もの苦手だなーと思っていましたが、
こういう不気味な雰囲気、人間の悪意がにじみ出ているようなのは面白い。
 
一財産を築き、隠居していた風見明と、その孫の世田猛が
風見の住んでいた屋敷の書斎で白骨死体となって発見された。
発見したのは風見の姪で留学から帰ってきていた友子。
書斎は、鍵を使って内側から閉じるタイプのドアで、
事件発覚当時、きちんと施錠されていた。
死体のそばに鍵が落ちていたにもかかわらず!
 
いい謎だ(´∀`*)ウフフ
この事件が謎めいたのは、死体が白骨化して鍵が外にでてしまったから。
つまり、二人が死んだとき鍵は死体の体内の中だったんですね。
真相は、孫に命を狙われていると予感した風見明は、
殺される直前に鍵を飲み込み、部屋を密室にすることで、
孫を道連れに餓死させようと目論んだというもの。
 
しかしそれだけでは終わらず、孫をそそのかしたのは姪の友子。
それぞれの策略がそれぞれの視点で綴られており、
お互いの腹の中が見られて面白い。
 
これはB・2、密室内の人間による施錠の変形かな?
 
③やくざな密室
 
ヤクザの抗争が勃発し、三和会の組長が
山口組に狙われているという情報が入った。
山口組はロケット砲を用意し、それに対し三和会は
核シェルターを導入し、まもりを固めているという。
 
ロケット砲発射時刻にシェルターに入り、
助かったと思われた会長だが、シェルター内で突然倒れてしまう。
まさか山口組の前組長の妻による呪いか?
 
これは結構わかりやすいネタかなと思います、
気密性の高いシェルターとストーブが出てきたら、
酸欠かなーと思いますもんね。
でも、「通気口はばっちりです」的な会話があったから
なんだー違うのかと思っていたらやっぱりそうだったww
しかし、この作品もそれだけじゃ終わりません。
 
死んだと思われていた三和会長の死体が盗まれるというおまけ付き。
しかも走行中の救急車の中で!この謎も魅力的( ´∀`)
これは結局酸欠で意識を失っていた会長が
息を吹き返しただけだったんですが、
一つのネタでいくつもの謎を作り出す手腕はさすが!
 
これはA・2 隙間からの犯行の変形?
 
④懐かしい密室(筒井康隆『富豪刑事』のパロディ)
 
これも偶然最近『富豪刑事』を読んでいたので楽しめましたw
出てくる警部さんが神戸大助→横浜大助になっていたり、
作家さんが辻井康夫になっていたりと細かいww
 
SF・ミステリー作家の辻井先生は、
突然の断筆宣言をした後、三人の編集者が監視をしていたにもかかわらず、
書斎から忽然と姿を消してしまいます。
そしてその2年後、事件当時の編集者が集まった同じ屋敷で
首を切断された遺体となって、書斎から発見されます。
これが作家自身の書いている『富豪警部』とリンクしていて面白い。
断筆宣言しちゃうあたり筒井先生そのものw筒井さん怒らないのかなw
 
トリックとしては、
2年前の事件→
編集者の一人中尾が辻井を逃がすために共謀。
お互いに似た人相をしていたので、四人で書斎に入った時に
辻井は宮本のフリをして逃げ出したというオチ。
殺人事件→
犯人は編集者の一人、谷山明。
書斎に入り、まずは生首だけを置き、ほかの二人に発見させる
二人がゴタゴタ驚いて電話などしているあいだに胴体の方を運び込んだ。
これも鮮やかだなーと思いました。
首と胴体を分断するところに必然性があるあたり、
金田一少年シリーズの『魔術列車殺人事件』を思い出してみたり。
 
肝心の小説中小説のオチなんですが、
「実は教授はタイムマシンを作っていたんだよ!」というオチw
筒井さんならやりかねないトンデモだわ\(^ω^)/
 
これは天城一さん分類で言うところのC8、
逆密室(-)死体を運び込むがしっくりきますね。
 
⑤脇本陣殺人事件(横溝正史『本陣殺人事件』のパロディ)
 
あまり昔の本格を読んだことがない私が横溝正史に挑戦していたのは、
このパロディ作品を楽しむためでした。
やっぱり元ネタを知っていると2倍は面白いですからね!
冒頭の作者の独白から既にパロディ色全開で楽しめた(・∀・)
そして四本指の男とか婚礼初夜とかまさにそのまんまw
 
ですが、トリックはもちろんパクっていませんのでご安心を!
結婚初夜の次の日の朝、旦那の宮地が頭をうって死んでいた。
部屋は密室で、ご丁寧に隙間はガムテープで目張りされていた。
そこに、妻の寛子が出頭してきた。
夜の営みを拒絶した表紙に強く押してしまい、
頭をうって宮地が倒れた。
そのまま怖くなって密室を作り、逃亡、
そのあいだに宮地は四本指の男の訪問を恐れてガムテで目張り。
 
一件落着かと思いきや、次に使用人の源爺が名乗り出る。
 
寛子が逃げ出したあと、部屋に行った源爺は宮地につめよられ、
その拍子に強く突き飛ばしてしまう。
ガムテープが目張りされていたので、彼は襖ごと外し、
外へ脱出した。
 
しかしこれも真相じゃなかった!
 
なんと犯人は遺産を狙った宮地の息子!
宮地氏が心臓の病気だということを知っていて、
夜中にブレーカーを落とし、寒くして脳震盪にさせたというもの。
 
これでも終わらない!
 
実はこれは事実を模した小説中小説!
犯人は作家自身で、部屋が暑くてブレーカーを落としたら
思いがけず宮地死んじゃったんだよ!というオチ。
 
もう何回落としてくるんだ!フリーフォール並に落ちてるよ!
ガムテープで目張りしていたのは寒さを凌ぐために本人がやったことだけれど、
これは『本陣殺人事件』でちょっとの隙間から琴糸を渡したことに対する
ささやかな反抗の意味も込めているのかしら。
 
これはA・3、室内の自殺・事故・狂言と
A・2隙間からの犯行(正確には違うけど)の合わせ技?
でも隙間じゃないしなぁ、やっぱり事故かな。
 
⑥不透明な密室
 
これは特に何のパロディでもないようです。
清川組と細田建設の対立に勝利した細川組、
真夏の終戦日に細川組組長が執務室で殺されていた。
庭に面した窓と、ドアにはきっちりと鍵がかけられていた。
しかも、庭には細川組の組員たちがウロウロしており、
侵入するのは不可能。一体誰が犯人?
 
これは清川さんが右翼の人だったというところに解決の糸口が。
つまり、終戦記念日の正午の時報で、
組員たちが全員黙祷している一分間のあいだに殺人が行われ。
そこから逃げてきた清川さんが自ら鍵をかけたというもの。
 
B・2密室内の人間による施錠の変形。
 
⑦天外消失事件(クレイトン・ロースン「天外消失」のパロディ)
 
これも元ネタ知らないなー。読まねば。
ロープウェイから一人の女の死体が転がり出てきた、
女性は腹を刺されていたがリフトの中には誰もいなかった。
しかし、リフトで男が女にナイフを振りかざしているところを
取材に来ていた編集者が目撃している。
空中にあるリフトから、男はどうやって消失したのか?
 
これは江戸川乱歩賞を惜しくも逃した作品だそうですが、
魅力的な謎だと思います。
結局は、死体の乗っていたリフトと、
編集者が目撃したリフトが別だったというオチなんですね。
その事実が上手く隠されていると思いました。
 
D・2の別の部屋を監視パターンだと思われます。
 
以上、素晴らしい密室の数々でした。
密室は出尽くしたと言われて久しいらしいですが、
まだまだいけるじゃないか密室!
これで少し密室苦手症が治った気がします。
これから読まれる方は、ぜひ元ネタを読んでから
楽しんでくださいね~(*´ω`*)