ぼくと1ルピーの神様 (RHブックス・プラス)/武田ランダムハウスジャパン
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土日は忘年会やら、久しぶりに友人にお会いするやらで
更新ができませんでした。
いつも更新を楽しみにしてくださっている、
いもしない読者様方、こんばんは。今日も寒いですね。
 
本日一冊目はヴィカス・スワラップさん『ぼくと1ルピーの神様』をご紹介。
映画『スラムドッグ・ミリオネア』の原作で、
映画の方はアカデミーを始め、いくつもの賞を総なめにしました。
 
おいおいどうした?お前の本分はホラー、ミステリ、時々スプラッタだろ?
平和ボケしてお涙頂戴の感動()小説に手を出しやがったのか?
地に落ちたな!…と自分も最初は思っていたのですが、
意外や意外、これがれっきとしたミステリーなんですよ。
謎があって、結果があって、意外性がある。
一見すると社会派の色が強いサクセスストーリーですが、
その丁寧な伏線や、アッと驚く仕掛けは読まないともったいない!
 
では、ネタバレ感想行ってみよ!
 
物語は、日本で言うところのミリオネアのような、
クイズ番組で優勝した青年が逮捕されるところから始まります。
冒頭からインド怖いなと思わせる展開…。
篠田真由美さんの『玄い女神』でも言っていたけれど、
インドは警察に捕まったらもう終わりらしいです。
ろくな捜査もされず、金持ちの意のままに罪が決定するという。
 
逮捕された青年はラム・ムハンマド・トーマス。
スラム街出身でなんの教育も受けていない彼が、
10億ルピーもの大金を手にしたことで不正の容疑がかかったのでした。
ラムはスミタという見知らぬ女性弁護士に、
自分がいかなる人生を送ってきたか、
そしてそこでいかにしてクイズの答えを知るに至ったかを話していきます。
 
一応長編のお話ですが、連作短編といってもいいくらい、
一遍一遍のオチが秀逸です。
 
①ヒーローの死
 
ラムの友人サリムはインド映画が大好き!
余談ですが、インド映画ってすごい面白いんですよねw
最先端の3Dグラフィックより3000人の人海戦術とでも言わんばかりに、
大量の人間が踊る踊るwそしてみんなベラボーに上手いw
 
サリムの憧れる俳優アマーン・アリが実はゲイでしたーというオチですが、
ゲイ自体が悪いわけじゃもちろんないけれど、
見境無い一部のゲイのせいで大勢の子供が被害にあっているんですね。
そのせいでゲイ全部が蔑視されて、カミングアウトできずに、
ますます鬱屈していくという悪循環…。
あまり身近な話ではなかったのでこう言う問題もあるのだなぁと認識。
 
②聖職者の重荷
 
インドは宗教も多種多様なんですね。
ヒンドゥー、イスラム、キリスト教…。
ラムを拾い、育ててくれた神父には実は子供がいて…。
それにしてもまたゲイの話かい。
インドはゲイ事件がかなり多いのか?
 
③弟の約束
 
長屋暮らしのラム・サリムの隣に越してきた天文学者一家、
しかし父はのんだくれで、娘のグディアは虐待を受けている。
ラムはグディアを本当の姉のように慕い…とうとう父を階段から
突き落としてしまう…。
 
④傷つけられた子供達
 
ラム、サリムがいた孤児院に養子をもらいに来る金持ち。
彼に気に入られれば、教養を身に付け、社会で成功を勝ち取れる。
そのはずだったが、彼は実は子供を使って盗みや物乞いをし、
それをポン引きする最低の人間だった。
ハラハラドキドキの展開に手に汗握ります…。
 
⑤オーストラリア英語の話し方
 
養父の神父のおかげで英語が話せたラムは
オーストラリアのテイラー大佐の家で使用人として働き出します。
しかし、テイラー大佐はオーストラリアのスパイ!
それこそ映画のような展開です。
 
⑥ボタンをなくさないで
 
バーテンで働き始めたラムが客から聞いた話。
これは少し怪奇小説よりの不思議な話。
なんでもブードゥー人形で嫁に兄を殺された男が、
復讐をするのだとか。
こういう土着信仰もインドでは今だ盛んなのでしょうか。
 
⑦ウエスタン急行の殺人
 
まっとうに稼いだお金を大切にパンツに入れて、
サリムのいるムンバイへと急ぐラム。
しかし、彼は強盗に遭い、身ぐるみをはがされてしまう。
ラムの五万ルピーを指摘したガキがすげー腹立つ。
そこでも乗客をひとり撃ち殺しちゃうラム。
日常茶飯事なんでしょうか…銃殺って。
 
⑧兵士の物語
 
お前らは本当の戦争を知らない、
私のように隠れた英雄もいるんじゃ!とじいさんが語ったのは、
生々しく、痛々しい現実にある戦争の話。
でもそのじいさん敵前逃亡した卑怯者だった。
でもだれもこのじいさんを声高に否定なんてできないよね…。
 
⑨殺しのライセンス
 
これはサリムと久しぶりにあったときに聞いた話。
サリムを偶然の成り行きで助け、雇ってくれたのは、
なんとクリケット賭博の好きな殺し屋の家だった。
次に彼がターゲットに選んだのは、プロデューサーのリズヴィ、
俳優を目指すサリムはこりゃたまらんと別のターゲット
④で子供達をひどい目に合わせていたママンを殺させる。
ひねりの効いた一発。
ここら辺から過去の人との意外なつながりや、
伏線が回収されてきて面白くなってくる。
 
⑩悲劇の女王
 
かつて映画界で悲劇の女王と呼ばれたニーリマ・クマーリのもとで
使用人として働いていたラム。
彼女は過去の栄光にすがり、現在に失望し、生きる希望を失い、
そして自殺してしまった。
トロフィーがゴミ箱に捨てられていたという描写が印象的。
トロフィーなんてそれ自体にはなんの価値もない、
それに価値を見出すのは本人ばかりなりという皮肉が痛い。
 

⑪エクス・グクルッツ・オプクヌ
 
タージマハルでの個人ガイドという職を見つけたラムは、
とある未亡人の屋敷に部屋を借りることができるようになる。
その頃に売春婦としての運命を決定された女、ニータに会ったりする。
 
相部屋のシャンカールが狂犬病になり、
屋敷の主人である女がその母親であると知ったラムは、
彼の治療費40万ルピーを出せというが冷たく断られてしまう。
折しも運悪く、ニータが客から暴行を受けて、
その見受けには40万ルピーが必要だと言われる。
女か友か?
結局友人の死に際に40万ルピーは間に合わず、
女の見受けなんて花からできないことを知る。
ラムは盗んだ40万ルピーを、子供が病気の父親にポーンとくれてやり、
もっと大きな金が必要だと悟る。
 
⑫13番目の問題
 
ここから怒涛の伏線回収ラッシュw
ライフラインの使い方が非常に感動的(´;ω;`)
⑪で助けたパパが英語教師で、
(完全回答とはいかないまでも)答えをひねり出してくれるのは胸熱…。
 
さらに弁護士のスミタ=③のグディアだったり、
ミリオネアの司会者=ニータをボコボコにしたやつだったり、
とにかくインド広いのに狭いな!と思わせる展開。
 
一番おお!と思ったのが、いつもいつもラムを幸運に導いてくれる1ルピー。
「やたら表でるなー」と思っていたら、思ってしかないコインだったのねw
彼は運なんかに頼らずに自分の道を切り開いてきたわけだ。
 
いやー、こういうサクセスストーリーって安っぽいと
鳥肌立つくらい嫌悪しちゃうんですが、
これは非常に良質。
「善を書くには悪を書かなければならない」と貴志先生もおっしゃってましたが、
悪いやつらが徹底的に書かれているから、ラムとその周辺の愚直な人たちが
本当に輝いて見えますヽ(;▽;)ノ
 
成功?そんなもの自分にはないよ、
と夢を諦めてしまった大人になった今こそ改めて読みたい一冊。