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私はとある生物学の研究所で技官をしておりますが、
今日初めてマウスを一から十まで殺生いたしました。
今までは麻酔されているマウスを切り開くだけだったんですが、
「生きてる奴も扱えないとだめだよ」と言われ、
麻酔をうち、切り開き、そのお命を頂戴するまでをやりました。
動物の内蔵をまざまざ見る機会は
生物学や医学をやっている人以外はあまりないのではないでしょうか。
ミステリー小説スキー(*´ω`*)な私の性質上、
内蔵?血?何でも来いやあああ!みたいな人に思われがちですが、
現実と小説の中は全く別物!気絶寸前でした。
小説は小説として、紙と私の頭の中だけで楽しみたいものです。
さて、本日は人間を魚を下ろすようにチャッチャッチャと
景気良く治療していく外科医が主人公の小説です。
いつまでも法月綸太郎と舞城王太郎を混同していては両先生に失礼なので、
舞城先生の作品にもトライしてみました。
本作はメフィスト賞受賞作です。
メフィスト賞=ちょっと変わったミステリーという曖昧な認識でしたが、
うんwwだいたいあってるwwだいぶ変わったミステリーw
ではでは、ネタバレ感想行ってみよ!
舞城さんの書く文章には『文圧』なるものが存在するという。
何それ?文の圧力?と訝っているそこのアナタ!
今すぐ本屋さんへGO!そして文庫を手にしてページをめくって欲しい。
文字が大きくてド近眼に優しい講談社さんとは思えぬ程の
文字のつまり具合!!改行句読点?何それおいしいの?状態。
こりゃー読むの時間かかるべや、と思って読み始めると
意外や意外。これが結構病みつきになる文章なんです。
「読みやすい」とは違います。平易暢達ともまた違う。
最初は読みにくかったし、リズムを掴むまでは若干イラっとしましたが、
掴んでからはジェットコースターに乗った気分。
ミステリーとしては若干弱い評価をされがちですが、
それを補って余りある『文圧』が確かに存在しました。
これはアメリカで凄腕外科医をしている奈津川四郎とその家族の、
どうしようもないけれどもどうしても切り捨てられない人間の物語。
四郎にはその名前のとおり三人の兄がいて、
一郎…一番まとも。余計なことにはとり合えわない。
二郎…自分の感情をうまく表現できない暴力屋。
三郎…芸術的センスがあるものの、二郎たちに将来を奪われ、無気力。
四郎…これまた精神に欠陥あり。自分と兄弟との分離が出来ていないご様子。
丸雄…全ての元凶。歪んだ性格の暴力親父。
二番目の兄、二郎は子供の頃から父の丸雄と喧嘩ばかり、
それが愛情を受けたい気持ちの現れだと本人には自覚がない。
また、丸雄は自分の父(つまり四郎たちの祖父)を殺した経験から、
反抗する二郎に恐怖を覚える。
そんな中、家の裏にある倉庫に閉じ込められていた二郎は失踪し行方をくらました。
それから何年もして、四郎たちの母親が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者に。
速攻で帰国して犯人を探す四郎。謎解きや暗号は特筆するものはないが、
解いていく過程は十分に楽しめる。
その答えも、ドラえもんに関連していたり謎が多いが、
事件とドラえもんの関係性は結局うやむやになって終わる。
四郎は最後、これは全て二郎が裏で関係していて、
大蔵省の凄腕河路夏郎=奈津川二郎(アナグラム)
(誰だよ!と思った人は文庫版p116をチェック!)
さらに、実行犯の崇拝していたジャワクトラ神も
二郎(アルファベットのアナグラム)だと推理します。
結局これは推測の域を出ませんが、
ジャワクトラなんていう不可思議な名前は二郎が関わっている可能性大ですね。
結局四郎は兄弟のことをどう思っていたの?
結局父の丸雄は、兄の二郎は兄弟のことをどう思っていたの?
人の心を慮るのが大の苦手な私には、
好きなのに嫌い、嫌いなのに大切な兄弟という感情が理解できませんでした。
さらに二郎の犯行の動機も筋が通っていないような…
二郎は影ですべてを操るような日陰の仕事ができるだろうか?
気を引くために暴力事件を起こしていたような人が?
丸雄はなぜ最後兄弟たちの名前を呼んだのか?
わからない、わからないけれど彼らの持つ一言では言い表せない感情を書くために
この物語が存在することには大いに感動する。
「好きだ」とか「嫌いだ」とか一言では表せない感情があるのも当然ですよね、
さらに血というものでつながってしまっている家族ならなおさら。
ミステリーを期待して読んでみて、思わぬ収穫がありました。
とにかく文章が読みにくくて読みやすくて癖になりかけているので、
ほかの作品にも手を出そうと思います。