独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)/光文社
¥600
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今日から朝の通勤にカイロを持っていくことにしたのですが、
一番寒いのは家を出て最寄りのバス停でバスを待っている時なんですね。
だけれどもその時間まだカイロは全然暖かくなくて、
全然関係ない就業時間にアッツアツになっちゃいました。
でも早起きしてカイロ温めておくっていうのも嫌だし…。
想像以上にカイロ、難しいです。
 
さて、本日は怖い話や犯罪のノンフィクションでお馴染みの、
平山夢明さんによる『独白するユニバーサル横メルカトル』です。
これもホラー小説愛好家には非常に評価が高かったので、
とっておきの時に読むとっておき本だったのですが、
我慢できずに読んでしまいました。
 
もうとにかくグロい!臭い!痛い!これにつきますね。
生理的に無理目な描写が出てくる出てくる…。
普段本を読みながらご飯を食べたり平気でしてしまう私ですが、
これは流石に無理でした。この気持ち悪さよ…。
作者さんのインタビューなんか拝見していると、愛読書に
式貴士『カンタン刑』とあって、あぁ、なるほどなと納得w
 
本作品は2007年のこのミスに選ばれているそうですが、
ミステリー性はあまりないです。
それよりかは、ホラーサスペンス大賞受賞作ということで、
ホラー分が多め。かと言ってそんなに怖いわけじゃないんですが。
 
ではでは、ネタバレ感想行ってみよ!
 
①C10H14N2(ニコチン)と少年-乞食と老婆
 
この作品は、たろうくんという小学生を主人公とする、
絵本のような優しい語り口で話が展開します。
話自体は優しくもなんともないんですけど。
 
学校でひどいいじめにあっているたろうは、
湖のほとりでテント暮らしをしている老人に出会います。
たろうくんは人並みの優しさから、老人にキャラメルをあげたりしますが、
それは仲間意識なのかな?と思いきやそんな感情とは程遠く、
たろうは彼を心底馬鹿にし、同情していたのでした。
 
いじめの構図がもう典型的な弱いものいじめで、
いじめっこ→たろう
パン屋のご主人→老人
二人は仲良くなると思いきや、たろう→老人になってしまうという。
結局人は自分より下の人間を作り出さざるを得ないのかもしれませんね。
 
老人が死ぬ前に硝子の子鹿を拾おうとして死んだのを見て
「こんなものを拾うために死ぬなんて…。
本当にくだらない人だったなとたろうは思いました。」
というくだりに徹底的な見下しを感じます。
おそらくたろうは老人を人だと思っていなかっただろうと思います。
 
老人に○ン○ンが二本あったのは何かの暗喩なのか?
 
②Ωの聖餐
 
大学で数学を勉強し、そのまま研究の道を夢見ていた「俺」は
交通事故で人を殺してしまい、死体処理業(の手伝い)という
裏の世界へと身を投じてしまう。
死体を処理していたのは、人肉を喰らい巨大な化物と化した
人とは思えない醜い、かつて人だったもの。
それは意外にも音楽や学問を愛していた。
 
主人公は、仕事をする傍ら、偶然大学時代の同期に会い、
数学の世界への憧憬を思い出してしまいます。
怪物オメガは自分にある養蜂家の死体を食わせてくれたら、
数学者の死体を喰って、リーマン予想を解いてやると申し出ます。
(オメガは死体を喰らうことで、その知識を吸収できる!)
主人公はそれに従いますが、オメガはリーマン予想を使用した
別の定理を証明し、養蜂家の体に蓄積された蜂の毒で死亡。
自殺だと考えられました。
 
その後、主人公はオメガの仕事を引き継ぎ、
数学の思索にふける日々です。
しかし、自殺防止のために、次の手伝いは耳の聞こえない人間が
選ばれることとなったようです。
 
小林泰三さんテイストのSFホラーという感じ。
「死体を食べる」という行為から、
知識の獲得、さらに自殺という話を書くとは、
どういう思考回路をされているのでしょう。
 
登場人物が全員肉の部位の名前なんですね!
ほかにもこう言う名前遊びがあるのかしら。
 
③無垢の祈り
 
暴力を振るう義父、宗教に洗脳され気が違った母をもつふみは、
誰にも救いを求められず、亡父を思い出すしか
自分を慰める手段を知らなかった。
そんなふみの住む家の近所で、連続殺人事件が発生する。
殺人鬼が殺したのが、以前自分を襲おうとした男だったと知って、
ふみは殺人鬼に親近感を持ち、コンタクトを取ろうとする。
 
そうこうしているうちに家の現状はますます厳しくなり、
母は完全に気を違い、義父はふみに手をかけようとします。
そこで!そこで殺人鬼さん登場。
もうね、平山さんありがとうと言いたい(´;ω;`)
よくぞ救ってやってくれたと。
これで救われなかったらそれこそただの嫌な話だもの。
 
殺人鬼がなぜふみを助けたのか、ただの興味なのかわからないし、
もしかしたらこのあとふみも殺されちゃうのかもしれないけれど、
誰かに救ってもらった経験を知らずに死ぬのと、そうでないのとでは
きっとその人生の意味は大きく違ってくると思う。
これからレオンみたいにふみちゃんと殺人鬼との共同生活が
始まらないかしら。
 
こういうどん底の子が幸せになる話には弱いです(´Д⊂
 
④オペラント肖像
 
これもSFっぽいですね。近未来SF。
徹底的に合理的に生きるために
「条件付け(オペラント)」を義務化された人間たち。
そんな社会の中で、条件付けの大いなる妨げになるとして、
芸術は破壊され、根絶の危機に瀕していた。
芸術は堕術と呼ばれ、それを扱うものは死刑となった。
 
優秀な堕術取締官として高く評価されていた主人公は、
実は堕術者(芸術を愛する者)を父母に持つ隠れ堕術者。
そんな彼は、同じく堕術者であるカノンという女性を
どうにかして救おうと画策する。
 
これのオチは多分敏感な人は気づいちゃうと思いますが、
もうお決まりの悪者みたいな行動をとってくれて清々しいくらいですね。
カノンは実は取締官の中に潜む隠れ堕術者を取り締まる
内定調査部の調査官だった。
最後に主人公の肖像画を蹴破っていくカノンさんwぱねぇww
 
これは芸術そのものの価値というものについて考えちゃいましたね。
ただの紙切れ、ただの絵。(この作品では芸術=絵でした)
皆がその価値を否定すれば、なんの価値もないもの。
でも誰かの心を掴んで離さないもの。
それは人間の奥底の本質的なものであって、
合理的に排除するなんて滑稽なんだよと言われている気がしました。
カノンさん化けの皮剥がれてからえらい滑稽でしたから。
 
⑤卵男
 
死刑執行までにその恐怖で精神に以上をきたす死刑囚が多いことから、
それを防ぐためのアンドロイドが作られたらしい。
連続殺人鬼エッグマンは、隣の監房の205号がそうだと思っていた。
 
これは世にも奇妙な物語でやってくれないかしら。
確かにどこかで見たことあるオチと言われればそれまでだけれど、
エッグマンの動揺や205号の精神状態、カレン博士の言葉が
非常にいい雰囲気作りをしていると思う。
式貴士さんっぽい。確かに。
 
⑥すさまじき熱帯
 
これはただただ熱帯地方の描写がおぞましく、気持ち悪い。
これ現地の人が読んだら怒り出すレベルじゃないかしら。
早急に金がいる主人公は、久しぶりに再会した親父ドブロクの誘いに乗り、
熱帯くんだりまでやってきた。
 
熱帯の川と森恐ろしす。
確かに川に落ちたらすぐにピラニアに食われちゃうっていうもんね((((;゚Д゚))))
結局仕事なんてなくて、ドブロクの個人的な願望をかなえに行っただけ、
現地の人を怒らせてにっちもさっちもいかなくなり
死体を燃やして助けを呼ぼうとするも虎の大群が来て、ジ・エンド。
 
この作品はあんまり響くものがなかったなー。
 
⑦独白するユニバーサル横メルカトル
 
メルカトルといえば、地図か悪質な探偵しか思いつかなかったのですが、
これは地図が主人公という一風変わった短編です。
もうタイトルがすごいですよね、一回見たら絶対忘れないw
このタイトルだけで8割方勝ったようなもんです。
 
さて、自我を持つユニバーサル横メルカトル図法で書かれた地図帳は
以前はタクシー運転手だった御先代に使われていました。
地図の涙ぐましい献身っぷりが泣けるw
最短ルートを示しつつ、使用者の好みを取り入れ、
状況に応じて最適のルートをご提供。
地図に愛着が湧いてきます。
 
御先代は仕事のストレスから、連続殺人鬼へと変貌し、
地図には死体を埋めた場所が記されていきました。
そんな先代はあっけなく事故死。
地図帳の次の所有者は救急隊員の息子。
息子も殺人者に早変わりwww
呪いの地図帳なんじゃねーのw
(でも実際殺人のお手伝いしちゃってるしねw)
 
ラストは暴走しすぎた息子に、地図帳がお灸を据えますが、
人の時間と地図の時間はやっぱり違ったwww
 
⑧怪物のような顔の女と時計のような頭の男
 
谷山浩子みたいなファンタジックグロなタイトル。
拷問業を忠実にこなすMCは、精神を安定させるために
堅牢に構築された夢の世界に逃げるという手段を使っていた。
 
いつものように仕事を始めるが、今回の獲物の女はひどい顔をしていた。
傷だらけのツギハギだらけで、吐き気を催すような顔。
その女は拷問に一切の恐怖を示さなかった。
 
逆に動揺し、夢の世界に逃げ込み安定化を図るMCだったが、
今までビクともしなかった夢の世界が徐々に壊れてくる。
この女の影響なのか?この女は誰なのか?
 
謎が全て明らかにされるわけではないですが、
女は覚えのないMCの娘で、もう先が長くない。
MCの精神安定の秘密を探るために、ドンがそれを利用したということ。
MCがやけに数字にこだわったりするところなんか、
強迫性障害の人は大いに共感できるんじゃないだろうか。
 
ラストはどちらが夢でどちらが現実かわからなくなる
有耶無耶パターンだけれど、これはこれでありだと思います。
 
以上の8篇でした、感想サイトなど見ていると、まさに賛否両論。
確かにどこかで見たことのあるような設定のものが多いし、
やばいやばいと言われているグロ描写も
ホラー作家さんならこれくらい書く人はほかにもいると思います。
だから、これを読んで何も思わない人は読む必要が全然ないと思います。
 
でも、私は平山さんの「同類への優しさ」みたいなものに共感しました。
自分のことはだいぶ変わっている人間だと思って、それを隠して隠して生きているけれど、
小説を読んでいる時ぐらいいい子ちゃんぶるのよせよ、
暗くてグロくて怖い話、聞いてみたいだろ?
みたいな歪んだ優しさが確かにあるんです。
 
裏切られ、絶望させられ、でもわかる人にはわかるよな?
というツンデレが見え隠れするお茶目な作家さんでした!!(ファンの方ごめんなさい)