シャイロックの子供たち (文春文庫)/文藝春秋
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今日は、私の家の近くでは初雪が降っておりました。
バスを待つ時間がとにかく寒い!
一緒に待っているほかの人も明らかにイライラしているし、
気の弱い引きこもりの私はその光景だけでメンタルえぐられます。

さて、本日は池井戸さん『シャイロックの子供たち』です。
銀行を舞台とした、連作短編群像劇です。
シャイロックとは、シェイクスピア『ヴェニスの商人』に出てくる悪徳高利貸しだそうで、
現在の銀行員たちの腐敗しきった様子を皮肉っているようです。
 
登場人物たちが最初にぽんぽんぽーんと景気良く出てくるので、
必要な人とそうでない人の取捨選択が大変。
きちんと読むには再読が必要な気がします。
 
とりあえず、一言感想だけメモしておきます。
 
①歯車じゃない
 
古川一夫…東京第一銀行長原支店、副支店長。高卒の叩き上げ。
小山徹…有名大学卒。融資課員。
 
ステレオタイプ化された反エリート精神の高卒上司と、
これまたステレオタイプ化された現代っ子風の新入社員。
古川の不祥事の責任を、自分に擦り付けられたことをしった小山は、
古川に反抗的な態度を取り続ける。
それに腹を立てた古川はとうとう小山に手を挙げてしまう。
 
手を上げる古川も古川だけれど、
それであっさりやめちゃう小山も小山だ。
物事を一点で捉えずに、古川と小山の様々な要素をリアルに
描いてあると思うけれど、読んでいてただ嫌な気持ちになった。
 
そのあとの作品も、基本的には人間の狡いところ、
悪いところ、本当なら見て見ぬふりしたいところがこれみよがしに描かれる。
 
②傷心家族
 
友野裕…融資課。妻と小さい娘が一人いる。
 
大城戸工業への融資の案件を任された友野、
この仕事を決めなければ自分と家族の未来がない。
崖っぷちに立たされた友野だったが、大城戸は無情にも、
競合するライバル銀行からの融資を受けるという。
それは昔東京第一銀行に見捨てられたあてつけで、
友野には一切関係のないことなのに…。
 
泣いて懇願する友野に対し、社長は「そういうの苦手なんだよね」
とドライな言葉を残して立ち去る。
 
しかし、ライバル銀行の急な経営方針の転換で、
希望の条件で融資を受けられなくなった大城戸は、
友野の融資の話を受けさせて欲しいと頼みに来る。
めでたしめでたし。
 
これも読んでてやりきれない気持ちになりますね、
大城戸さんが東京第一銀行を選んでくれたのはあくまで偶然で、
友野さんの誠意によるものじゃないんですよね。
友野さんもそれをわかっていて、でも喜ぶしかない。
追い詰められた弱い人間がリアルに書かれていて怖い。
 
③みにくいアヒルの子
 
北川愛理…有能な女子行員。家庭の事情でお金に困っている。
三木哲夫…愛理の恋人。
西木雅博…営業課相談グループ課長代理。
 
東京第一銀行で100万円が紛失した!
そしてその日の日付が印刷された帯封が愛理のカバンから発見された。
もちろん見に覚えのない愛理。
 
疑いをかけられる愛理だが、古川をはじめ
銀行のトップたちはポケットマネーを払い、
事件をうやむやにしてしまった。
 
結局、哲夫の元恋人の先輩行員、麻紀の犯行?
指紋調べてやるぜ!で、エンド。
 
④シーソーゲーム
 
遠藤拓治…業務課、課長代理。
滝野真…業務課、課長代理。
 
バリバリのポイントゲッター滝野に対して、
今ひとつ業績が振るわない遠藤。
何が悪いというのでもない、誠実で、真面目に仕事をこなしているが
やっぱり結果が伴ってこない、典型的なかわいそうな人。
その遠藤が大口の取引先をものにした!
しかし、遠藤に連れられて社長に挨拶をしに来た鹿島が見たものは、
粗品に囲まれた狛犬だった。
 
これだけ異質な短編という感じ。
こういうどこかおかしい、どこか狂った世界観好きだー。
狛犬に律儀に挨拶しちゃう鹿島さんww
 
⑤人体模型
 
坂井寛…人事部長
 
人事部長の坂井が、とある男の経歴を見て、
その人物の人となりを肉付けしていく様が描かれていく章。
経歴と社内にある資料を見ることによって、
その男がどういう考えの持ち主で、どういう問題を起こしてきたがが
徐々にわかってくる。
その男の名前は西木雅博。
 
西木は何者かとバーで落ち合った直後、
突然、失踪してしまっていたのだ。
 
⑥キンセラの季節
 
竹本直樹…野球少年だった過去を持つ高卒行員。
 
かつて甲子園を目指し野球に打ち込んだ竹本、
しかし運命のいたずらによって夢は立たれ、行員の道へ。
そこでも新たな夢に向かって歩き出すが、
またまた運に見放されてレールから外れてしまう。
 
そんな彼が回されたのは疾走中の西木の後釜の仕事。
そこで竹本は、西木が行員たちの指紋を採取していたことを知る。
そしてタイミングを測ったかのような今回の失踪。
真相に近づきつつある竹本は、身の危険をはっきりと感じる。
 
その後竹本は広島へ英転。
胸の中に釈然としないものを残して、
竹本は長原支店を去る。
 
⑦銀行レース
 
とある男…競馬に入れ込みすぎて、銀行の1000万円を賭けに使ってしまう。
黒田道春…検査部
九条馨…支店長
 
この章は、とある男が競馬に入れ込み、銀行のお金に手をつけてしまう話と、
検査部の黒田が、長原支店の100万円紛失の調査をする話が交互になって語られます。
その二つにどんな関係があるの?と思っていましたが、アッと驚く結末!
ブラック九条さんの本領発揮!
じつは1000万円を着服したのは過去の話で、
その男=黒田だったんすね!それで逆に九条にゆすられる。
 
この小説はいい人がほとんど出てこなくて欝になりますね!
黒田さんの「部下をバカ呼ばわりする上司は無能」的な発言に
大いに共感したのにお前犯罪者じゃねーか…。
 
⑧下町蜃気楼
 
田端洋司…融資課新人
 
この章では、滝野さんの架空融資が暴かれていきます。
田端くんと愛理さんが徐々に真相を突き止めていくところは
ハラハラドキドキさせられます。
愛理さんだけが心のオアシスだよー。
 
かと言って田端君も通り一遍な新入社員という書き方はされず、
隙あらば転職してやろいうとしている抜け目のなさがあります。
そしてその転職も不発に終わり、今の状況の空虚感を噛み締めます。
なんか働くのが本当に嫌になってくる話です。
 
⑨ヒーローの食卓
 
この章では、幼少時代の思い出と、
現在の家族が語られ、自分の犯した罪に押しつぶされそうになる
滝野が描かれています。
 
何なんだろう…この虚無感…。
ほんの出来心が招いた癒着は、
後戻りのできないところまで来ていて…。
ピカレスクロマンスキー(*´ω`*)な私だけれど、
こうもリアルに描かれると反発せざるを得ない。
 
滝野に同情もしないし、切なくもならない。
なんだろう、イライラする。
その原因は、この作品が的を射ていて、
反論のしようがないから。
 
⑩晴子の夏
 
三年前に夫を失った晴子が聞いた、西木の死。
愛理と話しているうちに、西木は殺されたのではなく、
滝野らと手を組んで、自主的に失踪したのでは?という疑惑が持ち上がる。
 
会えないのと会わないのはどちらが幸せなのか?
謎を残したまま終わる本作ですが、結局西木は生きているのかな。
 
以上の10編でした。
現在の貧乏な状況と相まって、読み続けるのが心苦しく、
私が今求めているのはこういうリアルな話じゃなくて、
もっと夢のある(もしくは夢の無さ過ぎる)小説なんだと認識。
 
ちゃんとした大人な視野を持っている人や、
やりたいことや夢のある人には大丈夫な小説だけれど、
私のようにメンタルが弱く、自分に自信のない中二病患者は
読むとどんどん辛くなると思います。