- 踊るジョーカー (名探偵音野順の事件簿 ) (創元推理文庫)/東京創元社
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さて、本日は北山さんの『踊るジョーカー』です。
音野順という気弱すぎるニート探偵と、
白瀬というちゃっかりものの推理小説家が出てくる
王道とも言える美味しい設定の短編集です(*´ω`*)
いやー噂には聞いていましたが、お弁当持参探偵の
可愛いこと可愛いこと…(*´`)
かなり文章もライトに書いてあるので、とても読みやすいです。
おどろおどろしい設定やエグすぎる殺人描写もないので、
そういうの苦手(;´Д`)という方でも大丈夫。
さらりと読んで手軽に謎を楽しみたい時にいいですね。
では、ネタバレ感想行ってみよ!
①踊るジョーカー
地下室にいる父親の悲鳴が聞こえ、依頼者の南斉夫妻とお手伝いの根津が
駆けつけると、父はナイフで刺され、事切れる直前だった…。
しかし、鍵は夫と父親本人しか所持しておらず、現場は完全な密室だった。
さらに不可解なことに、父が刺されたナイフには、
トランプが中心で円を書いたように広げられて貫かれていた。
犯人はどうやって密室で父を殺したのか?
ナイフで貫かれたトランプは一体何のためか?
作者の北山さんは『物理の北山』と呼ばれるくらい物理トリックがお得意らしい。
本作も見事な物理トリックが考えられています。
トランプを中心を揃えて円になるように並べ、ナイフで貫く、
それをナイフの先端まで少しずつずらして、ナイフをねじれた円柱で
コーティングした感じにする(言葉で説明しにくいがな!)
それを階段の上から転がして、地下室の前で受け取る、
南斉が扉を開けたと同時に室内に入り、父を殺害する。
使用人の根津の犯行でした。
しかし階段の上からナイフを転がし、それを追い抜いて、
下で受け取るというのを誰にも気づかれずにできるのだろうか。
転がる音もするだろうしトランプって派手だし見つかりそうな気が…。
こんなこというのは野暮ですね(´∀`*)
②時間泥棒
資産家の姉弟(上野アサヒ、カイ)の家の時計が日に日に盗まれていく。
盗まれるのは決まって動いているアナログ時計で、
止まっている時計や、デジタル時計には一切手がつけられていない。
また、特定の部屋の時計しか盗まれていない。
家のドアや窓の鍵は壊された形跡がなく、
家に出入りしていたのは姉弟以外は姉の婚約者だけだった。
なぜ犯人は時計だけを盗み出したのか?
「何故時計が盗まれたのか?」という魅力的な謎です。
音野さんは盗まれた時計の要素として
①特定の部屋で
②秒針を刻む音がしている
という条件から、
盗聴に邪魔だったから時計が盗まれたと推理します。
犯人は姉の婚約者、姉に取り入り、財産を独り占めするために
屋敷を盗聴していたのだとか。
姉と音野さんがちょっといい感じでほのぼの( ´∀`)
続編で再登場してくんないかなこの姉弟。
③見えないダイイングメッセージ
ある発明で一財産を作った笹川明夫が強盗に殴り殺された。
彼が所持していた金庫には遺産が入っていたが、解除番号がわからず
開けることができない。
困り果てた息子、晃が金庫の開錠を依頼しに来た。
明夫は死ぬ直前にポラロイドカメラで一枚の写真を撮っていた。
写っているのはなんの変哲もない時計やラックで、
数字を示すものは特にない。
今回探偵役は音野さんのお兄様、要さん。
こちらは順さんと違って指揮者として大成功を収めています。
さらに推理の才能もあるときたら順さん立場無いっす(´;ω;`)
彼曰く、ポラロイド写真はその内容に意味があるのではなく、
ただただ紙が欲しかっただけだそうな。
それに指紋を使って番号を教えたと、なるほどなるほど。
確かに数字は10個、指も10本ですね。
さらに、写真を撮られた当時犯行現場に電気がついていたことから、
犯人は強盗なんかではなく息子の晃であると順が推理。
あっさりとタイーホされました。
④毒入りバレンタイン・チョコ
女生徒二人が作ったバレンタイン・チョコを教授、男子学生二人
の5人で食べていたら、女生徒一人が突然苦しみだした。
なんとチョコレートの一つに青酸化合物が混入されていたらしい。
毒が仕込まれていたのはチョコのしたに敷いていた台紙で、
誰がそのチョコレートを食べるのか操作するのは不可能だった。
チョコレートはなんの変哲もないもので、
ギザギザのカップに台紙を敷き、逆プリン型のチョコを入れたもの。
しかし、彼女が食べたチョコの台紙だけなんと磁石が仕込まれていた!
犯人は机の裏から反発するように磁石を押し付け、
台紙を浮かせて、毒をチョコにつけたらしい。
あんたすごいよ…その執念。
動機は、彼女を入院させ献身的に看病したかったから。
歪んでる…歪んでるよその愛情。
さすが『物理の北山』だなーという感じ。
⑤ゆきだるまが殺しにやってくる
ある事件の帰り道、豪雪でにっちもさっちもいかなくなった音野と白瀬は
雪だるまが点々と作られたとある豪邸に一泊させてもらうことにする。
奇しくもそこでは一人娘の結婚相手を選別する試験途中で、
条件はただ一つ「魅力的な雪だるまを作ること」だった。
夕食に呼ばれ、食堂に向かう二人だったが、
そこで音野が窓から見える「雪だるまが動いた」と主張する。
気のせいかと聞き流し、食事をしていると秘書の深津さんの悲鳴が!
現場に駆けつけると先ほど音野が動いたと主張した雪だるまの手前に
結婚相手候補の一人が殺されていた。
彼らが食堂に来る前に雪だるまを見たときにはなんの異状もなかったので、
犯行が可能だったのは発見されるまでの10分間。
アリバイがないのはもうひとりの候補者だったが、
彼にはひどいしもやけがあり、犯行は不可能だった。一体どうやったのか?
実は雪だるまの前の死体の前に風船で作った雪だるまがもう一体有り、
死体を隠していたというのがトリック。
深津さんが換気扇を回すという習慣を利用して、
風船の雪だるまを解放し、発見時刻をずらしたそうな。
紐で固定しているくらいじゃ雪だるまはゆらゆら揺れるだろうし、
風がきつく吹いたら死体を隠していたビニールシートは飛んでいってしまうだろうし、
これはちょっと運に頼りすぎじゃないか?と思います。
そのために計画が2回失敗しているという言い逃れはありますが、
そもそも計画した時点で破綻が見えているような気が…。
うーん、この作品はいまいちだったかな。
以上の5編でした。
物理トリックというとややこしい!難しい!というイメージがあって
あんまり好きじゃないかなーと思っていたのですが、
これはお話も軽妙だし、解説もとても丁寧になされているので楽しめました。
短編集ということで、あまり音野さんと白瀬さんの人となりがわかりませんでしたが、
それは次作に期待したいと思います。