倒錯のロンド (講談社文庫)/講談社
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さて、本日は折原一さん『倒錯のロンド』のご紹介です。
こちら江戸川乱歩賞の最終選考に残るも、
惜しくも受賞を逃してしまった不遇の作品です。
しかし、最終選考に残ったというだけあって、
「例のトリック」を使った作品愛好家には人気が高いです。
ロンドとは同じメロディーがくり返し現れる曲の形式のことで、
ベートーヴェンの「エリーゼのために」なんかがこれにあたるそうです。
 
では、ネタバレ感想行ってみよ!
 
山本安雄は第20回月間推理新人賞の応募要項を見て、
『幻の女』というタイトルの自信作を仕上げた。
友人の城戸に原稿の清書を頼んでいたが、
彼の不注意により大切な原稿を永島一郎に盗まれてしまう。
お金目当てにその原稿を自分のものとして提出することに決めた永島、
口封じのために作者である山本を殺そうとするが、
間違えて城戸を殺してしまう。
後に山本をも襲撃するが、致命傷を与えられずに逃がしてしまう。
 
永島一郎はその原稿を出版社に提出し、
白鳥翔というペンネームで売れっ子になっていた。
貧乏なままだったら決して手に入らなかったいい女、立花広美をものにし、
次の構想に頭を悩ませていた。
 
そこに山本からの妨害工作が入る、
イタ電、週刊誌へのリークなど様々な手段で白鳥を追いつめる山本。
しかし、逆に返り討ちにあい、電車に轢かれかける。
山本は広美をそそのかし、自宅へ押しかける。
広美は殺され、現場に駆けつけた白鳥が死体を発見
白鳥が犯人としてタイーホされ、復讐は完遂された…めでたしめでたし。
 
なんて終わらせないのが折原クオリティ。
この一見するとただのサスペンス小説にアッと驚くトリックが隠されているんですね。
つまり、白鳥翔=永島一郎ではなく、
本当に白鳥翔という作家が存在したということ。
白鳥=永島の明確な記述がないのは怪しいなーと思っていましたが、
巧妙にその事実が隠されていて、
叙述トリックだと事前に知らなければまず気づかなかったと思います。
それくらい話運びが自然です。
 
流れまとめ
 
・第20回月間推理新人賞
山本→『幻の女』というタイトルで応募するも落選
白鳥→同名『幻の女』という全く別の小説で受賞。
(山本の冒頭での同様はこの結果発表による)
 
・第21回月間推理新人賞
山本→白鳥の『幻の女』を写して応募。もちろん落選。
永島→白鳥の作品を写した山本の原稿を応募。
このとき、とある女の冗談をまにうけ、ペンネームを白鳥翔に。
もちろん落選。
 
・山本、第20回の月間推理新人賞の結果発表を見て、
永島が白鳥の名前で応募していることを知る。
・永島、山本の原稿が盗作だと分かって頭にくる。
 
・広美殺しに関しては、白鳥が犯人。
 
メインはこんな感じでしょうか。
無駄がなく、簡潔な話運びなので、一気に読めます。
全く違和感を感じさせずにここまで秘密が散りばめてあっただなんて
やっぱり叙述の魔術師だなーと思います。
盗作(した山本の原稿)の盗作というタイトルも素敵ですね。
 
巻末に、作者を山本に見立てた掌編が挟まれていますが、
作者の苦悩や追い詰められていく様子がリアルで面白い。
『異人たちの館』といい、この作品といい、
折原さんは賞レースでかなり苦労をなさっているような印象。