しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫)/新潮社
¥452
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以下

「この文庫本で試みた企てを、

どうか未読の方には明かさないでください」と注ありますので、

未読の方はどうか本書をお読みになってからお越し下さいね。

壮絶にネタバレした感想書きますので。


よろしいですか?


さて、本書は一応推理小説に分類されると思うのですが、

推理小説界よりもマジック界で異常に有名らしいです。

それはこの文庫本自体に驚くべき仕掛けが施されているからなんですが。

マジシャン泡坂さんの真髄ここに見たりという感じ。


お話のあらすじとしては、

超能力探偵ヨギガンジー御一行が

新興宗教団体惟霊講会の後継問題に巻き込まれるという話。

惟霊講会の設立者、桂葉華聖はその後継を

健康だけが取り柄の隠し孫、清林寺忠茂にするか

並々ならぬ霊能力を備えた端姉日導(胡泉瑠璃子)にするか

悩んだ末、断食対決でそれを決めることにする。


短いながらもいろいろな要素が詰め込まれた作品で、

なぜ死んだ人間が生き返るのか?だの

『しあわせの書』が澱粉質の紙でできているので食べられるだの

ヤセールというノンカロリーの疑似米で敵を弱らせるだの

味方だと思っていた海尻=鷹狩だっただの

目新しさはそんなにないものの、しっかりミステリーしてます。


でも何よりもすごいのは本書そのもののトリックでしょう。

書いちゃうとうっかり読んでしまう方がいては困るので

ぼかしますが、すっっっっっっごい言葉の制約の中で

仕上げられた作品です。読んだ方にはわかりますよね!

その中で何の違和感も感じさせず、

このクオリティのお話になっているのは感動ものです。


おそらく『ブックテスト』というマジックを熟知したマジシャンの方なら

アイデアくらいはすぐに思いついてしまうのだろうけれども、

それを実際に書き上げる技量と根性を持っているのは泡坂さんだけでしょう。

もうほんと、この大技にはあっぱれというしかありません。

実際に本書を使ったマジックがテレビで披露されていた

こともあるそうです。


マジックグッズにして大儲けもできたはずなのに、

中身を練り上げ新潮文庫として普通の本棚に並べた

作家・泡坂妻夫としての気概がひしひしと伝わります。


超能力のイカサマを暴くマジシャンといえば

ハリー・フーディニの実話やドラマ『TRICK』など

心躍るお話が多いですよね。

人を騙して莫大な金をせしめる悪徳超能力者が負かされるのは

見ていて小気味がいいです。


シリーズ物の話らしいので、ほかの作品も読んでみようと思います。