彼女はもういない/幻冬舎
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ここのところ文章が固めの作品が続いていたので、

たまにはグイグイ読めるものでも読んで手放しで楽しもう!

というわけで本日は西澤保彦さん『彼女はもういない』です。

R18ミステリと評されるだけあって、

嫌悪感が半端ない作品です。


私の今までの西澤さんのイメージはSFミステリ風の、

どちらかというとパズラー寄りな作品が得意なのかなーというものでしたが

一気にイメージ変わりました。

しかし、いくつかの感想サイトを見てみると

西澤さんはどちらかというとこういうキワモノが多い人らしい。

知らなかった…。


さて、この作品はいわゆる倒叙もので、

作品のメインは「どうしてこんなことをしたのか?」という謎です。

ではでは、ネタバレ感想行ってみよ!


母校の同窓会名簿が卒業生の鳴沢文彦のもとに送られてきた。

そこに住所の記載がない人物が一人、比奈岡奏絵。

彼女は学生時代、文彦、正明、啓太とともにバンドを組んでいた。

その名簿を見た文彦は恐ろしい連続殺人鬼へと変貌する。


物語は文彦パートと理会(警察)パートで交互に進みます。

文彦の起こす奇妙な連続強姦殺人事件は警察を悩ませます。


・なぜ犯人は被害者の携帯を使うことに拘泥するのか?

 (GPSで追跡される危険性もあるのに)

・なぜ犯人は被害者の携帯メモリからDVDを渡す人物を選ぶのか?

 (その人物が海外にいたり、死んでいたりすることに思い至らないのはおかしい)

・なぜDVDをその関係者に渡そうとするのか?

 (自己顕示欲が強いならマスコミにでも送りつければいい)

・なぜ被害者は服を着たまま陵辱されたのか?

 (邪魔でしょ?服)


一方文彦は計画の完遂に向けて着々と準備を進めます。

甥に犯行を手伝わせ、スケープゴートの一人に仕立てる。

近所の邪魔なホームレスを家に住まわせ、真犯人に仕立てる。

すべてぬかりないです。


そして、最後の被害者のお嬢さんは、

高校時代の同級生で現在教師をしている正明の教え子。

正明は自分の生徒を助けようとして犯人に殺される、

真犯人役の二人も殺される&自殺してめでたしめでたし。

というのが文彦の書いたシナリオ。


被害者の携帯を使うことにこだわったのは、

正明のデータを入力したりなんやかんや偽装工作するのに都合がいいから。

携帯メモリからDVDを渡す人を選んだのは、

あくまでランダムに正明を呼び出したと思わせるため。

なぜ関係者に渡したのかは、

正明にDVDを見せても怪しまれないようにするため。

なぜ服を着たまま陵辱されたのか、

正明の教え子であるとすぐに感づかせるため。


たったこれだけのために罪のない人を4人も殺したのでした。

そして驚きの動機は「所在不明の奏絵に会いたかったから」

ポカーン(゚д゚)です。やりすぎです。

しかも本の帯に

「女を殺せば殺すほど、会えると信じていた」

って思いっきり書いてるのであまりびっくりしませんでした。


そして衝撃の事実、

実は奏絵と連絡が取れなかったのは

彼女は性転換手術を受けて身元をくらませていたから。

そしてスケープゴートとして殺しちゃったホームレスは

奏絵だったんだよーんというトンデモオチ\(^ω^)/

びっくりしました。


ここまで来て表紙のベンチや、

『彼女はもういない』のタイトルがじわじわ来ますね。

これには二通りの意味があるのかな?

『彼女は(男になっちゃったから)もういない』

『彼女は(殺しちゃったから)もういない』かな?


文彦は、事故で記憶喪失の奏絵が

無意識のうちにベンチにいったと思っていますが

もしかしたら奏絵は事故になんてあってなくて、

ただ文彦に会いたくてきたのかなーなんて妄想してみたり。

傷跡は手術の失敗による後遺症、

喋らないのは声を出すとバレるから。

…考え過ぎかな。


さて、いろいろ書いてきましたが、

全く誰にも感情移入できませんでした。

文彦の屈折した少年時代は理解できますが、

それも同情に足る理由ではないし…。

強姦の描写もエグすぎる('A`)

ラストの警視さんの冷たい一言も

あまり彼女自身の哲学が示されなかったのであっさり気味。

西澤さんは人を突き放すお方だ…。


しかし、ラストまで一気に引っ張る筆致、

丁寧に練られたプロット、オチの意外性。

どれをとってももちろん水準以上です。

ぐわーっと読んで驚きたい!っていう人にオススメ。