星降り山荘の殺人 (講談社文庫)/講談社
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さて、本日は倉知淳さん『星降り山荘の殺人』ですが、

ネタバレ無しで感想を書くのが非常に難しいので、

まだ読んでない方は読んでからいらしてくださいねー!


よろしいですか?


『探偵』が『犯人』を指摘した時の驚きたるや!(゚д゚)

久方ぶりの体にバズーカ撃ち込まれた並の衝撃でした。

こりゃすごい!間違いなくフーダニットの傑作の一つです。


ちょっとしたいざこざで上司をぶん殴ってしまった杉下青年は

星園詩郎というスターウォッチャータレントの付き人にさせられる。

その出張先の山荘で、イベント会社の社長が殺された!

全員にアリバイがなく、明確な動機もない。

星園詩郎の推理が炸裂する!というあらすじ。


もうね…なにから感想書けばいいのだろう。

とにかく、すべてを疑ってかかる必要があったのだということ。

『盤外戦術』とでも言うべき仕掛けがいたるところにあります。


まずノベルズ版の裏表紙の宣伝文句

「星園詩郎の華麗なる推理」…間違っちゃいない!

それから登場人物表、

星園さんと杉下さんがこれみよがしに後ろに!

これで騙されちゃいけない!

そして一番巧妙な、しかして大胆な仕掛けが章のはじめの一言

「そこで本編の探偵役が登場する(中略)

事件の犯人ではありえない」

これっすよこれ!見事に騙された\(^ω^)/


主要トリックは紛れもなく叙述、

しかも、神の目を持った読者だけを騙す叙述!

ミステリー界の暗黙のルール

「探偵は犯人じゃない」

「登場人物紹介で後ろに書いてあるのが探偵」

「推理は探偵だけが披露するもの」

という先入観を利用した鮮やかな構成でした。


叙述はその性質のためにどうしても

フェアじゃない!本格じゃない!と批判されがちですが、

これはとてつもなくフェアだし(騙されたのは読者の勝手な思い込み)

きっちりと論理的に犯人を言い当てられる本格です。

もうすごいわーさっきからベタ褒めしかしてないわ(〃ω〃)


では、犯人絞込み条件について

バカスな私自身の理解のためにメモしておきます。


①位置関係


犯人が裏口から入ってきたと仮定すると、

わざわざ表口近くにあるこけしを凶器にするはずがない

→麻子、嵯峨島除外


②凶器の選択


第二の殺人で、凶器が財野さん自身のズボンだった

→犯人は、物置にロープが入っていたことを知らない

→あかね、麻子除外


③アリバイ


第一の殺人のあった夜、杉下が口論の声を聞いた

→杉下自身、直後に会った星園除外


④心因的要素


ミステリーサークルを作ることで、

宇宙人犯人説を信じ込ませようとした。

しかしUFOを全く信じていない人にはその発想がないはず

→星園、あさこ除外


これはちょっと本格としては除外条件が甘いんじゃないの?

と一瞬思いましたが、『安楽椅子探偵とUFOの夜』で

確かこれもフェアだとかなんとか言っていたのを思い出しスルーしてしまった。


⑤身体特徴


警報装置の糸を結び直したのは犯人以外ありえない

→糸を結べない人は犯人ではない

→嵯峨島、ユミ除外


⑥行動


警報装置の糸を結びなおす必要がなかった人は犯人ではない。

これがわかりにくかったのでまとめてみた


犯人は、広間にユミと美樹子が寝ているのを知っていた

→警報装置が作動済だと思われると

→自分が立てた物音がその音だと思われ、

 犯行時刻が特定されてしまう

→その時間にユミと美樹子が偶然起きていたら、

 二人はアリバイを証言し合って容疑者からはずれてしまう

→もしユミか美樹子が犯人ならそんなことするはずない

→ユミと美樹子除外


おいおい犯人いなくなっちゃったよ!

と思いましたが、その後星園は『アリバイ』の条件だけ

杉下の主観に基づく推測だと指摘。杉下さんピーンチ!


しかし出ました!真の探偵麻子さん!

かっこいいっす!素敵っす!

「探偵役が真犯人を指摘する」

の一文。すごいっす!作者のドヤ顔が目に浮かびます。

悔しいけれど気持ちいい!


麻子はまず、③アリバイの条件について、

社長がラジオを聴いていて、携帯で会話をしていたのだと推理。

次に、④心理的要因についても、

あれはミステリーサークルなんかじゃなく、

自室のピッケルを使い、壁の煤跡と違う凶器を現場に残してしまった

犯人が、壁をきれいにするために雪を集めた跡だと指摘。

なるほどー!奇妙な雪の取り方だけど納得できる!

そして最後に、⑧凶器の選択Ⅱで、杉下に犯行ができなかったことを証明。

→星園タイーホと相成りました。


これぞ本格の醍醐味ですなー!

犯人が星園だったということももちろん驚きましたが、

こうやって一つ一つ丁寧に可能性を潰して

犯人を追い詰めていく過程が非常に楽しかったです。


しかし星園さんの動機ェ…

いや、ホモが悪いとか言ってるんじゃないんですよ。

故郷の恋人(と仮定)の冤罪云々は…?

あとブスブス言い過ぎwwwガキかwww

イケメンが取り乱してる姿を想像すると笑えるwww


という感じでした。長くなってしまいました。

久しぶりに良質な作品を読みましたが、

物語の性質上説明描写が多く、

キャラがはっきりしている割に感情移入できなかったので星4つ。


倉知さんは他に『過ぎ行く風はみどり色』を読みましたが、

あの叙述トリックの方が(トリックとしての完成度はこれより低くても)

主人公のキャラクターと物語になくてはならない素晴らしいものだったので、

どうしても本作の評価が厳しくなっちゃいます。


途中読んでる時に星園シリーズってあんのかな(´∀`*)

これ読み終わったら続編さがそ~と思ってた自分ワロスでした。