異人たちの館 (講談社文庫)/講談社
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はい、本日は折原一さん『異人たちの館』です。

折原さんの名前は他の作家さんの解説やらで知ってたんですが

実際に読んだのは今回が初めてです。

(「はじめ」さんかと思ってました。正しくは「いち」さん)

なんでも、叙述の魔術師なんて呼ばれているとかいないとか。

これは読まなければなるまい!


文庫にして600ページほどあるそうですが

(私は新潮社の単行本で読みました)

こんなにも続きが気になる作品はそうそうないですね。

小説中小説、インタビュー、独白、新聞記事などで

飽きさせずに話を引っ張り、

ドイツ商人が建てた館、謎の美女、見に覚えのない尾行…

などなどミステリー好きの心をくすぐり続けます。

そして徐々に明らかになっていく登場人物たちの関係。

こりゃすごい。


が、しかし。他のミステリーのように

「明確な殺人があり、

それをくらますための手段としての叙述」

というよりかは叙述そのものが目的になってる感じ。

なので、読後感は結構あっさりめ。

『たまねぎミステリー』と勝手に命名してます。

玉ねぎの皮をむくのがめちゃめちゃ楽しいけれど、

向き終わったあとには特になにもない…みたいな。


しかし、その皮むきが段違いに面白い!

なので、「重厚な人物描写や、テーマを味わいたい」

という人には不向きです。

「次から次へとはよ謎もってこいや!」という人にはおすすめ。


ではネタバレ感想行ってみよ!


話はある人物の独白から始まります。

その独白は随所にはさまれており、

どうやら樹海で遭難してしまった様子。


ところ変わって東京では島崎潤一という売れない作家が、

小松原淳という失踪した青年の自伝を書いて欲しいと

その母親に依頼されます。


小松原淳の過去を洗っていくうちに、

彼の周りでは不審な死が相次ぎ、

そこに背の高い異人の影がちらつきます。


徐々に明かされる彼の出生の秘密と、義妹との関係。

そして行方不明の義父父親、謙人の行方。

まとめてみるとこんな感じ。


・幼少の頃の淳やユキの邪魔者を始末していた異人

→パパ謙人(本名ケントさん)

・淳とケントは実は実の父子

・島崎潤一は小松原淳がとり損ねた新人賞の受賞者

・小松原淳のことを嗅ぎ回っていたおばちゃんは島崎潤一のママ

・地下室で発見された異人は生きていた淳

・独白は「こまつばらじゅん」と見せかけて「こまつばらじゅんいち」

→結婚して性が小松原になった潤一


主だったトリックはこんなもの?

一つ一つ小出しに解決していくので

たいしたことないように見えるけれども

これだけのミスディレクションを盛り込むのは

相当に大変なことだろうともいます。神の領域です。


淳と潤一…絶対何か意味があるなーと思っていたけれど、

結婚で苗字が小松原になるところまでは考えてなかった。

だからことさらに家族との不仲を強調していたのね…。

そしてかあちゃん…あんたいいとこ全部持っていくなw


総じて!読み終えてみると、ジェットコースターに乗った感覚で、

詳しいストーリーは思い出せないんですけれども(鶏脳)

読んでいるときはとにかく楽しい!

叙述スキー(´∀`*)さんには堪らない一冊でしょう。