- 鍵―自選短編集 (角川ホラー文庫)/角川書店
- ¥509
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- 先日友人と話しておりましたら、
- 友人「私最近ヤスタカにはまってるんだー!」
- 私「ええ!偶然!私もめっちゃハマってるよ!
- 何読んでる?『時をかける少女』?『富豪刑事』?」
- 友人「え?」
- 私「え?」
- 友人「えっと…中田ヤスタカだけど」
私「(´・ω・`)」 ということがありましたが。めげずにいきます。
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本日は筒井康隆さんの『鍵』でございます。
筒井さんの作品は『家族八景』くらいしかきちんと読んでないので、
ワクワクしながら読ませていただきました。
では一言ネタバレ感想行ってみよ!
①鍵
芋づる式に出てくる鍵とそれに付随する記憶。
私は今持っている鍵ですらどこの鍵か思い出せないことがありますが…。
カビ弁当と瓶詰めおたまじゃくしのくだりは本当にわかるw
次々と現れる鍵の奔流に飲み込まれて、
徐々に後戻りができなくなり、ついには取り返しのつかないことに…。
男の人には女性の経験で思い出したくない過去が
ひとつふたつあるものなのでしょうか。
悲鳴をあげ続けながら、おれはその戸を開いた。
緊迫した空気感がすごく伝わります。
②佇むひと
犬柱、猫柱、人柱という刑罰?のある世界の話。
最初はわんちゃんが植えられて植物になっている描写、
次に猫、そして恐れていた人間…と。
言論の自由が取り締まられている世界なのかな?
主人公の奥さんが植物化されてしまいます。
生きている主人公と、人柱にされ心が停止している人を書くことで、
心が停止したまま生きることについて問いかけているんでしょうか。
③無限効果
脳波に直接ものすごい強い広告を送ったら、
街中の人がその商品を狂ったように奪い合ってしまったという話。
オイルショックってこんな感じだったのかな…。
宣伝とそれに踊らされることの怖さが味わえる逸品。
④公共伏魔殿
いわゆるNHKのことなのかな?
確かにテレビ局って、一般人にはわからないところですよね。
過去のスターが何をしてるのか、全くわからない。
経済界にも政界にも大きな影響力を持っていることは確かだし、
筒井さんはこういう現実的なホラー(そして皮肉?)がお得意そうなイメージ。
ゾンビ化したかつてのスターの描写は
グロテスクで哀れ。
⑤池猫
これもカビ弁当みたいな感じ。
後暗い過去に蓋をして生きる人間の恐怖。
先のことを考えるとリアルに恐ろしい。
⑥死にかた
すごいシュール。鬼てwww
でも性格も十人十色なら、死に方も十人十色。
淡々と殺す鬼、まさに地獄絵図の肉塊描写、
そして浮き彫りになる「死にかた」という人間らしさ。
短いながら面白いです。
⑦ながい話
短さの勝利。
いるいる、こういうおばあさん。
嬉々として話すおばあさんの顔が鮮明に思い浮かぶ。
超自然なことが一切ない、人間の怖さ。
⑧都市盗掘団
これはなんだかお話の軸がよくつかめなかった。
地中にある家に住む人たち(特に時さん)と斎藤さんの話かと思いきや
呪われた酒を飲んで死ねなくなってしまった盗掘団の話っぽい。
世界観もなんだか不思議。
⑨衛星一号
これは小松左京&星新一と並んでSF御三家と言われる
醍醐味が味わえるショートショート。
落ちていったはずのおとっちゃんは星を一周して
また上から降ってきたってことなのかな。だから衛星なのか。
⑩未来都市
ほぼ電話での会話だけで成り立つ掌編。
未来になってもお役所仕事は変わらないよという皮肉なのかな?
⑪怪段
こういう、主人公が幽霊怖がってる→自分が幽霊でしたパターンはよくありますよね。
ぱっと思いつくだけで3つも上がるので、ホラーショートショートでは
結構使い古されているのでしょうか。
しかし私はこの手の話が大好き。
自分が死んでいるとわかった時の主人公の反応が
切なかったり、滑稽だったり、いくつもバリエーションがあるから飽きない。
⑫くさり
盲目の少女の父親は、皮膚の研究をしていた。
少女の可愛がっていた猫は、皮膚をつながれカーペットにされた。
そしてある日地下の研究室におりた娘にふりかかる衝撃。
パパはママの髪が偏執的なまでに好きだったのね…。
しかし鎖の音の意味がわからなかった。教えてエロい人。
⑬ふたりの印度人
これ怖いw
怖いの根源って、「理由がわからない行動・現象」だと思うんですよ。
これはまさにそれw誰かもわからない人が淡々と家に入ってくるw
これ怖いだろwある意味強盗より怖いよw
そして増えちゃったよw
⑭魚
ヒッチコック『鳥』の魚みたいな感じ?
勢いを増す川に、巨大化する魚
それだけでえらいこっちゃなのに何故か冷静に
家族会議になるのがなんともシュール。
達観した夫婦の会話が冷静すぎて怖い。
⑮母子像
既読。
『異形の白昼』の感想をお読み下さいませ。
マグリットのような世界観が面白いですよ。
⑯二度死んだ少年の記録
これはこの短編一番の問題作ではないでしょうか。
主人公が作者自身のため、最初「ノンフィクション?」
と思いましたが、そう見せかけたホラー。
しかし、そこに登場する教師の心理や、
いじめの現状は決して目を背けることのできないことです。
肉塊になってなお思いを哀れみを抱いて欲しい少年。
こんな衝撃作を書ける筒井さんはやっぱり神です。
初筒井作品でしたが、非常に好印象!
あの手この手を使ったエンタメばかりかと思いきや、
読ませるところはしっかり読ませてくれます。
怪奇モノスキーな人には自信を持ってオススメ!