- 花まんま (文春文庫)/文藝春秋
- ¥570
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さて、本日2冊目は『花まんま』。
直木賞に輝いている怪奇ノスタルジック短編集です。
舞台のすべてが大阪のとある下町という設定です。
私は関西に生まれ育ち、一時関東で住んでいました。
こちらでは当たり前に話していた関西弁が、
向こうではまるで漫才師のような「面白い言語」である
という認識に最初は戸惑いました。
その当時の気恥ずかしさから、
私は今でも「関西人(特に大阪)ってなんとなく下品」と思っています。
町内会の打ち合わせか何か知らないが、
玄関先に犬をくくりつけておいて上り框で大声で話すおばちゃん。
ちょっとかっこいいお兄さんの肩を意味もなくバンバンたたき
上機嫌で話す髪が紫のおばちゃん。
何かから身を隠しているの?と言いたくなる
豹柄の服を着たおばちゃん。
昼間から顔を赤くしながら上機嫌で競馬をやるおっちゃん。
私は大きくなってもああはならないぞと固く心に誓ったものです。
しかし、あるところでは
見知らぬ小学生だった私に飴をくれたり、
大きくなって実家に帰ってきた私を覚えていて
「大きなったなぁ」とまるで自分の孫のように喜んでくれたり…。
そんな、人の心に土足でずかずかと入り込む
一種の(ある意味迷惑な)優しさをも持ち合わせているのです。
さて、この話はそんな不思議な国、大阪で起こる
ノスタルジックで不思議なお話が収められています。
解説にもありますが、
ノスタルジックな話というのはしばし人を置いてけぼりにするもの。
しかしこの作者さんはその巧みなストーリーテリングと
『時代を特定する名詞』を可能な限り排除することで、
どの世代の人にも少なからず存在するノスタルジックな思いをうまく引き出しています。
では以下、ネタバレ一言感想行ってみよ!
①トカビの夜
『トカビ』とは韓国に伝えられる伝説の子鬼のこと。
小学生のころ一緒の集合住宅にいた朝鮮人の兄弟チュンジとチェンホ。
おもちゃをいっぱい持っていた主人公は、
体の弱いチェンホと時々遊ぶようになる。
当時朝鮮人は差別されていて、チェンホはそれを喜んでくれた。
しかし、主人公の心にもなかった意地悪をしてしまった直後
チェンホは死んでしまう。後悔する主人公。
その後集合住宅では幽霊が出たと大騒ぎに。
主人公は幽霊のチェンホと心行くまで遊んでやり、
その後幽霊は一度も出ていないという。
心残りの友人との再会という暖かいストーリーの裏側に
子供にまで敏感に伝わる差別意識を浮き彫りにさせる短編。
②妖精生物
ちょっとあらすじ長くなってきたのでほんと一部分だけ。
クラゲみたいな妖精生物買ったYO!
最近仕事でうちに来た大介さんに胸キュン。
お母さんが大介さんと浮気して家でいったー!
大きくなって愛してもいない男と結婚して3人の子ができたけど
コインロッカーに捨てちゃおっかしら。
妖精生物というのは何かのメタファーなのかしら?
③摩訶不思議
酒飲みで遊び人だったおっちゃんが死んだ。
一緒に暮らしてた内縁の妻カツ子、
懇意にしていたバーのママカオル、
ダンゴ屋のお姉さんヤヨイ。
生前付き合っていた3人がそろうまで霊柩車は動かなかった。
バトルになるかと思いきや、3人は仲良くなった。
いますよね、こういう死んでからも迷惑かける人。
でもそれも笑って許せるのがナニワの女なのかも。
④花まんま
妹に前世の記憶あったYO!
前世の娘さんは21歳の時に殺されてた!
彦根に行って前世の女性の家族に会いたい妹、
今の家族を大切にしてほしいとそれを拒む兄。
会うことかなわない妹は、
娘を殺されて意気消沈する前世の父に
『花まんま』を渡す。
花まんまって何?と思っていたら
お花で作ったお弁当のことだったのね!
駅まで兄妹に会いに来た前世の家族を
ぴしゃりとつっぱねるお兄ちゃん。かっこいいっす。
⑤送りん婆
言霊唱えるだけで人の肉体と魂を分離できる最強のばあちゃん!
なんか弟子にされちゃった主人公。
送りん婆は傲慢になっちゃいけないと釘を刺される主人公。
ばあちゃんの死に際、人を殺せる言霊を教えてもらうも
結局跡継ぎにはならなかった主人公。
最近の腹立つやつらにお灸をすえてやりたいとか
危ないことをさらっと言ってのけちゃう主人公。
こんな危険な言葉を、不完全な人間に教えちゃいけない。
⑥凍蝶
いわれのない差別のために少年時代を孤独に過ごした主人公。
ある日墓場でミワさんという18歳の女性に出会う。
孤独な心の隙間が埋まり、喜ぶ主人公。
寒さ忍び寄る秋に飛ぶ蝶を馬鹿だという彼に、
あれは凍蝶といって越冬する蝶だと教えるミワさん。
そこに飛んでくる一匹の蝶、
それは沖縄でしか見られないはずの凍蝶。
その蝶を病気で死んだ弟だといって泣き出すミワさん。
彼女とはそれきり二度と会っていない。
鉄橋人間のくだりは必要…?
子供時代の孤独は大人になってからの孤独よりこたえる。
決してありふれたノスタルジック小説で終わらせない、
かといって不必要なホラーや性描写も用いない。
洗練された短編集でした。直木賞なだけあります。いい作品でした。