殺人鬼/双葉社
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さて、今日はホラーとミステリの境目を自由自在に行き来する

綾辻行人さんの『殺人鬼』です。ジャンルはホラーかな?

ホラーとはいいつつも、そこはミステリご出身、

きちんと仕掛けが施されているのでただのグロでは終わりません。


とある山小屋でキャンプをしていた男女7人が

狂気に支配された『殺人鬼』に次々になぶり殺されていく、

というわかりやすいスプラッターホラーです。


ではネタバレ感想行ってみよ!


■ミステリ小説として読んでみる■

ミステリ小説として見た場合、本書のキモは言うまでもなく叙述トリックです。

綾辻先生ホント好きですねー叙述。そのせいでほとんど映像化できないという…。

このトリックを分解すると


①双子(二人)が一人であると見せかけている

②犯人(大八木英男)がもう死んでいると思わせる(バールストン先行法)


の合わせ技なんですね。

詳しくは神サイト『黄金の羊毛亭』へ!


しかし、作者さんが最初に書いている通り、

描写の違和感を拾っていけば

①についてはすぐにわかるのではないでしょうか?


服の色、体の欠損部分、多すぎる兄や姉の描写、

姉と同い年の妹、「特別な夫婦」、

『茜』や『千歳』のように名前っぽい苗字を使って

苗字で名前を呼ぶことの違和感を減らそうという努力が見え隠れ


これでもか!っていうくらフェアに書いてくれています。

なので①に関しては容易に推察できるので、

これがメインとリックというよりかは作者の言うとおり、

ちょっとしたお遊びだったととらえるほうがより楽しめます。


②に関しては全くわかりませんでした。

でも彼が殺人鬼である必要性をあまり感じなかったのでもやもや…。


そもそもこのトリック自体がかなり危うい

双子の姉兄と妹弟同士がキャンプに行くのはまだいいけれど、

同じような会話をして、同じような状況で殺されて…

っていうのはあまりにも無理がある。

本格っぽい驚きを期待してたら肩透かしを食らってしまいます。


■ホラーとして読んでみる■


グロい!とにかくグロいっす先生!

私は死んでから肉体でもてあそぶ描写は全然怖くないんですよ。

『殺戮に至る病』がグロミステリーでは有名ですが、

あれは死体をもてあそぶ話なのでそんなに怖くなったんですね。

が、この話は生きている人間をいかになぶるかという話なので、

もう痛みで顔をひきつらせながら読みました。


しかし精神的な追い詰められ感はありません、

残された登場人物たちが殺人だと気付くまでに

次々と殺されていってしまうからです。

だからホラー小説としても一級品とは言い難いです…。


総じて!

ミステリーとしては綾辻先生にしては本気度がない…

かといってホラーにしては恐怖が足りない…

なので、本書はスプラッタ小説として読むべきです!

そういうのが好きな人にはどんぴしゃです。