嗚呼、これで手元の小林さんシリーズは全部読んでしまった…。

図書館の予約はよ…。いやね、もちろん本屋で売ってるなら買いますよ!

でも売ってないの!近くの田舎の本屋じゃ!角川ホラー自体が絶滅危惧種なの!

だから図書館で読む→文庫をコツコツとそろえるということをやっております。


さて、今日は『家に棲むもの』ですね。

SFテイストは若干少なめなホラー寄りのものが多かったです。

それじゃざっくりとしたネタバレ感想いってみよ!


①『家に棲むもの』


文子は旦那と姑との3人で旦那が昔住んでいた実家に帰ることになった。

その家はなんでも昔の所有者が廃材で作り上げた家屋だったらしく、

いびつに歪み、ねじれ、腐臭漂う何とも居心地の悪い家だった。

そしてなぜか姑の芳や娘が誰かと話しているような行動をとり始め…。


部屋になんかいる!っていうのは永遠のホラーのテーマのようです。

私も引越しを何度か経験しましたが、やっぱり新居ってそういうの気になりますよね。

部屋に遊びに来た友達が「寝てるときに胸の上を誰かに歩かれた!」と怖がっていましたが、

私は霊感ゼロなので何も感じずにその部屋で暮らしていました。


テイストとしては井上夢人さんの『アパートの部屋貸します』(だったかな、記憶曖昧)

風味の目に見えない、じわじわくる系の怖さかなーと思っていましたが、

「まじでいんのかい!」

この一言に尽きますね。そしてそれを寛容に受け入れる文子と芳の順応力の高さw


②食性


誰もが一度はきっと牛や豚を食べることに罪悪感を持ったことがあると思います。

そのたびに「感謝して命をいただいているから」とか「肉食動物だって肉食ってんじゃん」

とか言い訳にもならない言い訳をして、見ないふりをしてきたのだと思います。

本作には「食べちゃえば罪にはならないよ!」の名のもとに、肉を食らいまくる女と

「動物を食べるなんて野蛮以外の何物でもない!」というベジタリアンの女が出てきます。


罪なんていうものは結局は人間が定めたものだから、

罪にならない!と思って食べれば罪にはならないし、

罪になる!と思って食べればその人の中では罪になるんですね、

だから食べても食べなくてもどちらでも構わないと思います。


あくまで人間以外の生物の話なら。


でもね、人を殺せば人間が決めた法律で罪になるんですよ…。


③五人目の告白


少しずつ食い違う4人の視点で描かれた一件の殺人事件。

もしかしたら証言者一人一人が多重人格の中の一人なのだとしたら…という話。

単調な告白ののちの男女の駆け引きが面白い。ぐいぐい読んじゃいます。

ラーメンズの『小説家のような存在』というコントを思い出しました。


④肉


丸鋸先生生物学にも手を出してたんすか!

『目を擦る女』で「タイムマスィーン」を作り、迷惑を振りまいた彼が帰ってきた!

今度は遺伝子組み換えで生物の「肉」の部分を増やす実験をしているらしく、

23本脚がある鶏とか、足の生えた鱒だとか

豚と牛の肉を半々ずつ持ったわけのわからない生物とかを作り出しているご様子。

先生も先生だけど助手の郁美さんw順応しすぎw


「殺される頭数が少ない方が人道的」という考えは

確かにそうなんだけど…そうなのかなぁ…と思ってしまった。

殺される命は少ないほうがいいに決まっているけれど、

じゃあ命は数なの?とか生まれてくる23本脚の鶏の苦しみは?

とか真剣に考えだすといろいろと深みにはまってしまう作品。


そんなお姿になってもハイヒールで踏まれて嬉しがる丸鋸先生は無敵です。


⑤森の中の少女


掌編。C級映画と名高い『ヴィレッジ』を思い出した。

森と村の境目を村のほうから見るか…森のほうから見るか…。

でも小林先生にしては結構普通の短編かな?


⑥魔女の家


こういうノスタルジィ的記憶と現実が融合していってわけがわからなくなる感覚はとっても好みです。

結局昔の「ぼく」は逃げ出すことができたけれど、

そうすると今の「わたし」はいったいどこに行ってしまうんだろうか。

なんだかタイムループに閉じ込められそうになったので考えるのをやめました。


⑦お祖父ちゃんの絵


小林先生ってピュグマリオン・コンプレックス的なところがあるのかしら…。

いや、別に人形の話でもなんでもないんですが、ふとそう思ってしまいました。

絵の中に二人の思い出を閉じ込めてしまったおばあちゃんの話。

最初は淡い思いを抱いた女性の恋話なのかな~と思っていたが、

もちろん小林先生そんな綺麗に話を終わらせてくれるはずもなく…。

相手の否定的な言動・挙動がすべて自分への愛の告白に聞こえる

都合のいい耳だな!ポジティブだなばあちゃん!

実際こんな人がいたら絶対怖い。腹が立って嫌な気分になること間違いなし。


舞ちゃんはいったい誰なの?

おばあちゃんに子供はできなかったはずなのだけれど…。


こんな感じでした。

うおおおおおお!っていう傑作こそありませんが、

はずれもありません。安定して読むことができる一冊です。

小林ファンの方は是非。初めて読む人にはちょっと物足りないかな?

他の作品で小林先生にどっぷりつかってから、出戻りされることをお勧めします。